サッカー馬鹿

2017.2.4

石井和裕 Jリーグ創世記のサポーターが語る、『女子サッカーと歌舞伎とサポーター文化論』

石井和裕 Jリーグ創世記のサポーターが語る、『女子サッカーと歌舞伎とサポーター文化論』

最前列が石井和裕氏(写真:石井氏提供)

そもそも、なぜ石井氏とコンタクトを取ったのかというと、その理由は、彼がJリーグ創世記からのサポーターだったから。ヴェルディー川崎と横浜マリノスが対戦した93年のJリーグ開幕戦、当時のゴール裏の熱狂を肴にノスタルジーに浸りたい。ボクにはそんな目論見があったのかもしれない。

今回インタビューさせて頂いた方、石井和裕さんは、Jリーグ創世記、横浜マリノスサポーターとしてゴール裏の最前線にいた方であり、その後、後継者にその座を継承し、現在はバックスタンド2階席で当時の仲間と共にピッチへ熱い視線を送り続けている、知る人ぞ知る伝説のサポーターの一人である。

ところがその目録見はいきなり外れることになる。Jリーグ創世記の熱狂に身を埋め、停滞期にもがき、横浜フリューゲルスとの合併という社会の潮流の煽りを目の当たりにするなど、激動の時代をチームと共に歩んできた彼が、その中でいったい何を感じ、どう行動に向かったのか。そちらの方に興味が湧いて仕方がなくなってしまったからだ。

現在、石井氏は、横浜Fマリノスのサポーターコミュニティーでの活動の傍に、足繁く通う2つの場がある。一つは女子サッカー観戦であり、もう一つは、なんと歌舞伎である。スタジアムで味わうべくサッカーの醍醐味を追い求めつづける彼は、いったい何を”オモシロさ”と定義づけるのか。Jリーグ創世記に身を置いたサポーターだからこそ知っている新しいサッカーの楽しみ方に耳を傾けてみたい。

女子サッカー観戦の魅力

日テレベレーザのサポーター(写真提供:石井氏)

――スタジアムに行くとこんな面白いことがある!女子サッカーの魅力を教えてください。

 

(石井) 女子サッカーの魅力は、単純に観戦の魅力で言うとサッカーがわかり易いということですね。すごくわかり易い。わかり易いの意味は二つに分かれていて、一つは、Jリーグや海外のプレーになると、ちょっと理解できないプレーがあまりに多くて、なんでそうなったのかは分からないけど、とにかくスゴイみたいな。

けど、女子サッカーの場合は、ある程度理解出来るスゴさなので、お、今のプレースゴイかったねっていうことが、あまり観戦歴のない人でもわかり易いということがまずあるのかなぁ。女子サッカーの面白さの一つは、純粋にサッカーが面白く観れるってこと。

2つ目の面白さは、男性の特にトップレベルのサッカーと比べて、女子サッカーは選手とかチームの個性が顕著に出るんですよ。

ワールドカップに例えると分かり易いんですけど、女子のW杯のブラジル女子代表の方が男子のブラジル代表よりも、ブラジルらしいんです。女子のドイツ代表の方がよりドイツらしいんですよ。極端に出るんですよ。北欧だってめちゃくちゃ北欧らしいでしょ。だから、なでしこJAPANがワールドカップで優勝した時だって、日本っぽいショートパスを繋ぐサッカーで優勝したじゃないですか

その面白さって、なでしこリーグやその下のチャレンジリーグでも同じなんですよね。このチームはこういうことしたいのかな、この選手にパス出して、こういう形が得意なんだなとか、ものすごく分かり易いんです。

 

――女子サッカーのゴール裏の風景というか、サポーター事情を教えて欲しいんですけど・・・

 

(石井) 女子チームのサポーターですか?それなら一番スゴイのは、ノジマステラのサポーターがえっらいスゴイなと思っていて、何がスゴイって平均年齢がものすごい高い(笑)もう40代前半なんて年少の方なんですよ。スゴイ年上のいいおじさんたちが全国追いかけて、10代20代の女の子を暖かく応援し続けるっていう、あの光景はスゴイですよ。

 

――「あー!あのおっさんまたイターーー!」とか。(笑)

 

(石井) そうそう、だいたい決まったおっさんたちがいたりして(笑)あれは本当に女子ならではって感じですよね。女子チームのサポーターで、Jリーグや日本代表のミニチュア版みたいな応援をしようとする方もたくさんいるんですけど、それはやっぱり限界あるんですよ。女子チームなんで。それとは違った良さがあるんですよね~。

あ、あとね、ベレーザの応援をしている女の子で、ものすごい飛び跳ねてる子がいるんですけど、ヴェルディーにいる全力さんているじゃないですか?僕はその子を全力ちゃんって呼んでいるんですけどね。やっぱり同性が応援するスポーツじゃなきゃ、そのスポーツは発展しないと思うんですよね。

 

――今後ますますスタジアム観戦者が増えるために必要なことってなんでしょうかね?あ、できればボクの地元のチーム、大和シルフィードについてですと有難いんですが。

 

(石井) まあ、ご予算もあることですから大変ですけど、もし本気で女子サッカーを盛り上げたいと、自治体や大和市が考えてるのであれば、もう少し女性思いのスタジアムにしていけばいいと思うんですよね

 

――例えば?

 

(石井) 例えば、あのスタジアムは千人規模のスタジアムですが、そのクラスのスタジアムの中では、日本で一番女性トイレが綺麗だとか。女子サッカーの街としてやっていくのであれば、それくらい女子思いの環境を整えてもいいんじゃないと思うんですよ。ピッチやスタンドなんて何処もそんなに変わらないじゃないですか。だったら、そういう姿勢を示すことが大切かと。

歌舞伎とサッカーの共通点

歌舞伎座 (写真提供:石井氏)

――あとね、石井さん。今日のテーマから大きくズレてしまうかもしれないんですけど、どうしても気になることがあって・・・。石井さんってサッカーと匹敵するくらい歌舞伎が好きですよね?はい。Facebookみればすぐわかりますから。もしかしたら、歌舞伎とサッカーって何か共通点というか、共通の醍醐味があるんじゃないかと思うんですよね?

 

(石井) そうそう、サッカーと歌舞伎ってめっちゃ共通点があるんですよ~。カンタンに言うと、日本のサポーターの応援と、アイドルグループへの応援とは共通点があると言われていますけど、その共通項のルーツは歌舞伎にあると思うんですよね。

サポーターが応援するクラブへ忠誠を誓って応援しますよね。それと同じことが、歌舞伎のファンには昔からあるんです。例えば、歌舞伎には屋号がありますよね?海老蔵さんだったら成田屋、勘九郎さんなら中村屋とか、そこにファンがつくんです。

ボクは中村屋が好きなんですけど、中村屋のファンって、お亡くなりになった18代の中村勘三郎の時から応援してます。勘九郎さんの息子さんがまた勘太郎として初舞台に立ちますけど、ずぅ~っと応援してるんです。世代を超えて、死ぬまで応援するんですよね。

しかもね、歌舞伎ファンは遠征という言葉を使うんです。普段は歌舞伎座とか東京を拠点に活動してるんですけど、年に何回か、京都や博多でも公演するんですね。熱心なファンは遠征と言って追いかけるんです。

 

――サッカーのサポーターさながらですね。

 

(石井) しかもね、日本人のサポーターって選手個人に向かってもコールしますよね?あれ嫌だっていう人結構多いんですよね。ヨーロッパっぽくないって。でもそれってしょうがないんです。だって江戸時代からの流れなんだから。基本的に、歌舞伎のファンは、物語を観に行くわけじゃないんですよ。つまりサッカーで言うところ試合を観に行くわけじゃなく、役者を観に行くんです。

例えば、忠臣蔵という話があります。忠臣蔵なんて歌舞伎ファンならお馴染みのストーリーじゃないですか。ファンの興味は、誰が大石内蔵助を演じるのかとか。どんな演技を魅せてくれるのかに興味があるわけなんですね。サッカーに関しても似たような感覚があって、選手を観に行くんですよ。だから仕方ないんです。

それでね、役者のセリフが決まった時に「中村屋!」ってタイミングを逃しちゃいけないんです。これってゴールが決まった瞬間と一緒でしょ?

もう一つあってですね、通常の演劇とかコンサートとかに行くとステージだけが明るくて、客席は真っ暗になってるでしょ?歌舞伎の場合は違うんです。観客席まで明るいんです。客席と一体なんですよ。サッカーにおけるピッチがあって、サポーターも脚光を浴びて、スタンドの様子も注目される。お互いが伝え合いコミュニケーションをする。サッカーと歌舞伎ってとっても近いんですよ。

サポーター文化論

石井和裕氏

サッカーを日本古来の文化的な視点で切り取る。そうすることで日本人ならではのサッカーへの接し方があること、日本人ならではの楽しみ方を知ることができる。 それが日本独自のサッカー文化形成へと繋がっていくのだろう。

 

(石井)  Jリーグ創設前、マリノスの前身、日産自動車時代の応援は、二強と並べられた読売クラブのサンバの応援に対抗して、アンチサンバから始まった。Jリーグの開幕と共にセリエAが流行したことで、それならばイタリア式の応援を真似てみよう。アルゼンチン人の監督を迎え、アルゼンチン選手を多く獲得したチームであるのならば、スペイン語のチャントを叫ぼう。

 

模倣から始まり、その精度を高め、オリジナルへと変貌を遂げる。そしてブランドとなる。まるで戦後復興から高度経済成長期を経た現在の我々日本人の姿と同じではないか。

Jリーグ創世記から、ブームが過ぎ去り停滞期にもがき続ける女子サッカー。そして日本古来の伝統芸能である歌舞伎の楽しみ方まで。大いにを語って頂いた石井氏の話は、今年で25年目を迎えるJリーグの、その成熟度を高めるためのヒントが隠されているのではないだろうか。

快く取材に応じて頂いた石井和裕さん、ありがとうございました。

石井和裕(いしい かずひろ)

 

+KeLサポーター研究所所長。1984年元日に日産自動車サッカー部の天皇杯初優勝を観戦。以来、観戦を続けている。マーケティング会社に勤務し、地域活性・観光地域づくりのために全国を飛び回る。傍らJリーグ関連ムック・雑誌の著作やマフラーのデザインも。2006年には株式会社モックで「モックなでしこリーグ」の協賛担当者。現在、フェイスブックページ「女子サッカー」を運営している。
http://www.tasukel.com

 

著者『日本のサポーター史』『横浜F・マリノスあるある』『サポーター席から:女子サッカー僕の反省と情熱』

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