一流のサポーターが集う「多摩川クラシコ」
勇気あるプレーへの喝采、怠惰なプレーへの罵倒、激しいぶつかり合いにしのぎを削る選手を後押しするのは、今シーズン最大の42604人の観客動員を記録した味の素スタジアム、ゴール裏に駆けつけたFC東京の熱きサポーターだ。
▼味の素スタジアムは今季最高の観客動員を記録
Jリーグ第9節 FC東京vs川崎フロンターレ
両チームの対決を”多摩川クラシコ”と煽る報道に嫌悪感を持つサッカーファンは少なくない。そもそも日本には本物のダービーマッチはなく、横浜ダービーや静岡ダービー、埼玉ダービーにしても、そこに歴史的背景はない。ましてやあの!エルクラシコ(レアル・マドリーvsFCバルセロナ)を連想させるネーミングは、尚のこと純粋なライバル決戦に水を差す。
今でこそJリーグ屈指の好カードと称される両者だが、その対戦は、前身の東京ガスvs富士通にまで遡る。その以降、JSL(旧日本サッカーリーグ)からJFL(日本フットボールリーグ)、そしてJ2、現在のJ1に至るまで、両者は激戦を繰り広げてきたわけだが、この日、ゴール裏に駆けつけたFC東京サポーターの多くは自らを”ガス”と名乗るほどの忠誠心を示し、長い年月をチームと共に歩んできた一流のサポーターなのだ。
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試合は、因縁のライバル決戦に相応しい攻防をみせた。大久保、レナト、小林悠、J1最強の攻撃陣の川崎Fに対し、リーグ最少失点を誇るFC東京は、米本を中心に、パスの配給元、中村憲剛にプレスを仕掛け決定機を作らせない。
試合の均衡を破ったのは、前半21分、中村憲剛のFKに飛び込んだ大久保のヘディングシュート。奇しくもこのゴールは、カズの記録を塗り替えるメモリアルゴールとなった。
▼J1140ゴールを決め、カズダンスを披露した大久保選手
後半に入ってからもテンポのつかめないFC東京は、河野から東へ、林から前田とメンバー交代から活性化を促す。次第に劣勢を強いられる川崎Fは、64分、武藤のドリブル突破をファウル止めた車屋がこの試合2枚目のイエローカードで退場、こうして迎えた71分、太田の直接FKが突き刺さり同点に追いつく。その後も、怒涛の攻撃を繰り返すFC東京、そして遂に待望の決勝ゴールが生まれる。
87分、太田の鋭いFKから武藤がドンピシャ豪快ヘッド!!
2−1FC東京が川崎Fを降ろした。
▼厳しいマークに苦しむも、ここぞで決める男、武藤。
この勝利でリーグ2位に浮上したFC東京だが、この日の勝利が象徴するように、圧勝劇は少なく、粘りの勝利が多いように感じるのは、これまでの7勝のうち、一点差での勝利が6勝というスコアが証明している。
そして、この粘りを後押ししているのは、やはり選手を鼓舞し続けるサポーターではないか。筆者の知る限りFC東京サポーターほどサッカーを熟知するサポーターはいない。なぜならば、選手を喝采するタイミングが他チームのそれと違うからだ。悪いプレーには厳しく、良いプレーには惜しみない拍手を送る。ゴールに歓喜するだけのサポーターはいらない。サポーターはチームと共に戦う仲間なのだ。サッカーを知り尽くすサポーターが作り出すスタジアムの雰囲気こそ、多摩川クラシコの醍醐味なのである。
しかし、残念なことにサポーターの熱気は、映像だけでは伝わらない。”多摩川クラシコ”こそスタジアムに駆け付けて欲しい。いずれ両チームの決戦が世界に誇れる日もそう遠くはないのだから。
勝村大輔