サッカー馬鹿

2017.1.3

なぜ人は学生スポーツに惹きつけられるのか。当事者を次々に創り出す高校サッカーからの学び。

高校サッカー3回戦

なぜ人は学生スポーツに惹きつけられるのか。その理由はそこに美しさがあるから。そして感動があるから。第三者はその光景を勝手にドラマと呼ぶ。

高校サッカー三回戦を観戦しに等々力競技場にやってきた。優勝候補の東福岡(福岡県)と鹿児島城西(鹿児島県)、東海大仰星(大阪府)と富山第一(富山県)前日の三ツ沢決戦で勝ち上がった両チームの対戦だ。

高校サッカーの楽しみ方はいくつかある。今回の観戦はバックスタンドを左右に仕切る両校の応援席から観戦、すなわち当事者側の視点に立って応援してみたかったからだ。

高校サッカー観戦は、普段のJリーグの試合時とは違いチケットさえあればどの席から観戦しても問題はない、スタンド背後のコンコースが広い等々力競技場では尚自由度が高い。メインスタンドやバックスタンド二階席に腰を落ち着かせるもよいが、もし、ひいきのチームがあるのならば是非とも応援席から選手に声援を送ることをオススメしたい。

バックスタンドを陣取る応援団は、ベンチ入りを果たせなかったサッカー部の生徒たちをはじめ、彼らの親御さん並びに学校関係者、チームカラーの鉢巻を巻いてるOBらしき年配の方々、あるいは地元の方々、チームによってはブラスバンドが帯同している。

Jリーグユースとは違い、一高校の部活動は全国の舞台で勝ち進むと共に、次々と関係者を巻き込み、地域をも味方につけてしまう。高校サッカーには、当事者を次々と創り出す魅力があるのだ。

彼らが送る声援は実に清々しい。審判へのクレームもなければ、相手選手へのブーイングもない。一心不乱に味方を鼓舞する姿に、一観戦者である我々もつい引き込まれてしまう。聞き慣れたJクラブのチャントの替え歌、圧巻のブラスバンドの演奏を背に、どんな劣勢に立たされても決して諦めずに最後まで声援を送り続ける。

メガホンを片手に大声出しチャントを歌うサッカー部員たち。ベンチ入りを果たせなかった彼らの背中には3桁の背番号をつけている選手もいた。彼らが着ているのはユニフォームではない入部当初に支給された練習着だそうだ。ユニフォームすら渡されなかった部活動の3年間、一度もピッチに立つことを許されなかった選手もいたのだろう。彼らはいったいどんな思いで声援を送っていたのだろうか。

彼らの思いは確実にピッチで戦う選手の勇気になっている。強豪校相手にも一歩も怯まない、選手たちはピッチで躍動する。

試合開始早々に失点を喫し、反撃に転じるチーム。訪れた決定機を決めきれずに頭を抱える選手もいた。ひたすらゴールに向かって挑み続けるチーム、しかし終盤に追加点を奪われ力尽きる。それでもチームは最後まで諦めない。

試合終了のホイッスルと同時にピッチに倒れこむ選手たちにスタンド中の観戦者からあたたかい拍手が送られる。彼らの3年間が終わった瞬間だった。

高校サッカーは敗者こそ美しい。語弊があるかもしれないが、バックスタンドから映る選手たちはそれ程に輝いてみえた。そして選手たちを支え続けた応援団の背中を見て、改めて学生スポーツの魅力を実感した。

学生スポーツはある意味プロスポーツの原点かもしれない。プロスポーツは観戦者なしでは運営が成り立たないからだ。そしてその観戦者のうち応援者がどれくらい含まれるのか。チームはサポーター(応援者)の存在なくては成り立たない。当事者意識を持った観戦者を次々に創り出す学生スポーツには多くの学びがあるのではないだろうか。

優勝候補東福岡に敗れた鹿児島城西。試合後、応援団を前に自らの思いを語ったキャプテン永吉くん。涙を堪えながら、応援への感謝を述べた彼のスピーチは立派だった。後のインタビューで、「3年間いろいろな人に支えられて、ここまで来ることができたので本当に幸せでした。悔いはあるけど、やり切ったので、また次に向けて頑張りたい」と晴れやかに語った彼。

一試合ごとに、そこでしか生まれないドラマがある。応援されるに値する姿勢を示した彼らを誇らしく感じた。

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