10月8日、湘南ベルマーレより曹貴裁監督の退任が正式発表された。曹監督のパワハラ疑惑が浮上したのは8月12日、およそ2か月間にわたりJリーグが調査した結果、パワハラを認定。これを受けて曹監督自らが辞任を申し出たとされている。
「そんなはずはない!」疑惑がリークされた当初、ほとんどの関係者は寝耳に水だったはずだ。
監督就任8年目、これまでJ2を彷徨っていたチームをJ1昇格へ導き、降格昇格を繰り返しながらチームは着実に力をつけ、昨年、ついにルヴァンカップ優勝の悲願を達成。文句のつけようのない実績を積み上げるとともに、その手腕に誰もが一目を置いていた。
中でもモチベーターとしての能力は各紙に取り上げられるほど絶賛されていた。記憶に新しいのはルヴァンカップ優勝の軌跡などを記録した湘南ベルマーレが毎年発行しているシーズンDVDではないだろうか。
作品内に印象的なシーンがある。試合後のロッカールームでの風景だ。不甲斐ない試合内容に叱咤する曹監督、その叱咤を受けて選手同士が互いの本音をぶつけ合う。選手と本気で向き合う曹監督の姿はSNSでも、はたまた地上波でもフォーカスされ多くの人に賞賛された。
それだけではない、昨年の天皇杯でプレーした3選手を名指しで叱咤。曹監督はその3名に謹慎を言い渡すのだが、後に当時の様子を振り返った同選手は「これほど本気で選手に向き合ってくれる人はいない。」と監督に対し感謝を口にしている。このようなエピソードは数多くある。
個人的に印象的深いのは2016シーズンを終えた直後、馬入グラウンドで目撃した場面だ。練習を終え、選手たちがグラウンドから引き上げる中、グラウンドの片隅で曹貴裁監督と菊池大介選手が長い間、膝を突き合わせ語り合っていた。その後、涙を拭いていた菊池大介選手は浦和への移籍を決断。その時何を語っていたのかはあくまでの想像の範囲内だが、チームを去ろうとしている選手に対して、男同士、正々堂々と膝を突き合わせた曹貴裁監督はおそらく菊池大介選手をあたたかく見送ったのだろうと筆者は想う。
曹貴裁監督が掲げる”湘南スタイル”は選手が90分間休むことなく走りつづける。勝敗にかかわらず一貫してその姿勢を貫く。最後まで決して諦めることのない湘南の戦いぶりはこれまで数多くのドラマを巻き起こしてきた。
昨今では第12節浦和戦。杉岡大輝のゴールが取り消されるというまさかの誤審に奮い立った湘南は、後半アディショナルタイムに山根視来のゴールで見事逆転勝利。誰もがチームのために全力を尽くすこのスタイルは曹貴裁監督のマネージメントなしでは成立しない。
疑惑浮上後、チームの指揮を自粛していた曹貴裁監督に代わり高橋健二コーチが率いることになった。それまで中位をキープしていていた湘南だが、曹貴裁監督の指揮自粛を境に6戦未勝利(2分4敗)の急降下。前節川崎戦は0-5、前々節清水戦で0-6と連戦大敗を喫したチームは完全崩壊、降格圏内の鳥栖と勝点で並ばれJ1残留は危機的状況となってしまった。
これが現状である。
ではなぜ曹貴裁が・・・と思ってしまう。
彼を信じたいという気持ちが揺らいだのは、やはり10月4日に執り行われたJリーグによる調査結果報告だろう。案件の詳細を見る限り、曹貴裁監督の言動は明らかにパワーハラスメントに該当していた。
突きつけられた事実に言葉を失ったサポーターも多いことだろう。それでも「監督を続けて欲しい。」と叫ぶサポーターも少なくなかった。この声は他チームのサポーターには到底理解できないだろう。それは曹貴裁監督が作ってきた数々の功績、そして何よりも愛されるチームへと導いた彼のチーム愛、熱意、人となりを彼らサポーターは目の当たりにしてきたからだ。
だからつい、「そこに愛はあるのか?」などという不毛な議論をしたくなってしまう。当然、愛はあったのだと信じたい、ただし、その愛は伝わってはいなかった。それは伝え方が相応しくなかったからだ。
曹貴裁監督は就任8年目、長期政権という背景は彼の力を知らずのうちに増大させていたに違いない。当然のことながら、たとえ些細な言動でも相手に与える影響は図らずも大きいということだ。彼の影響力が高まる一方で彼へ意見できる者が少なかったのだろうと想像できる。このあたりはクラブ側の責任でもある。
今後は再発防止が責務であり、目下の目的(残留)を果たすために1日でも早く新指揮官を招聘し力強い再起への第一歩を踏み出して欲しい。
はっきり言って今、湘南ベルマーレはとんでもない苦境の最中にいる。しかしこれまでの道のりを振り返れば、乗り越えられない壁などあるはずがない。そんなことは部外者が言わずとも関係者の誰もが心得てるはずだ。
落ちたら這い上がればいい。やるこたぁシンプルだ!
湘南ベルマーレ再起へのシナリオが始まった。
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