高校サッカー準々決勝
等々力競技場での高校サッカー選手権準々決勝
未来のスター選手に想いを馳せる。これもまた高校サッカー選手権の楽しみ方の1つである。あの時の、あの選手がJリーグで活躍している、日本代表に選出された、あるいは世界の舞台で輝いている。選手権での彼らの勇姿を思い返し、まるで自らが手塩にかけて育てたかのような錯覚に陥ってしまう。そんな選手権ファンの方も多いのではないだろうか。
今大会も現時点でタビナス・ジェファーソン(桐光学園→川崎フロンターレ)をはじめ11名の選手がJリーグクラブへの加入が内定している。内定選手の多くがユースからの昇格を果たす選手で占める中、選手権ファンにとっては、この11名こそが希望の光なのだ。
未来のJリーガーのプレーを堪能する。スタジアムに訪れた観客の多くは、彼らの活躍を見に焼き付けようとピッチ上に目をこらす。ところがその視線はいつの間にか別の方向へと向けられていることに気がつく。彼らと共に戦うチームメイトへ、はたまた彼らと対峙する相手チームの奮闘に目を奪われてしまうからだ。
敗戦にも気丈に胸を張る東福岡10番藤川
小田逸稀(鹿島アントラーズ内定)高江麗央(G大阪内定)藤川虎太朗(ジュビロ磐田内定)3名のJリーグクラブ内定者を擁する前大会優勝校の東福岡。彼らの圧巻のプレーに注目が集まる準々決勝。彼等の前に立ちはだかったのは、大阪代表の東海大仰星だった。
「タレントでは勝てなくても、ボクらは組織で戦うことをこの1年間やってきた。」と松井主将が語る通り、東海大仰星は東福岡の猛攻を耐え凌ぎ、試合終盤のCKの混戦から最後はDF吉田が決勝ゴールを挙げた。放ったシュートはこの一本のみ、東海大仰星の勝利は大金星だとメディアはまくし立てた。
タレントだけではない青森山田の強さはチーム力にある。
もう1つの山、青森山田vs正智深谷の一戦でも同様の光景を目の当たりにすることになる。3ー1。スコアこそ力の差を見せつけた青森山田の盤石の勝利かのように見えたこの試合でも、正智深谷のチーム力を前に優勝候補青森山田はたじろいでいた。
GK廣末陸(FC東京内定)高橋壱晟(ジェフ千葉内定)をはじめタレントを揃える青森山田は、随所に個の能力が際立っていた。この日1得点1アシストの活躍を見せた高橋、決定機を好セーブで防いだ廣末。確かに彼等のプレーは圧巻の一言に尽きる。しかし、試合終盤に1点を返された後、再び円陣を組み冷静に試合をコントロールできたのは紛れもなく青森山田のチーム力だったのではないだろうか。
試合後に交わされた正智深谷と青森山田応援エールは感動ものだった。
スター選手の活躍、その背景にこそ高校サッカーの醍醐味がある。その醍醐味は決してニュース報道やダイジェスト番組では味わうことはできない。「サッカーは11人対11人、チームで競い合うスポーツなんだ。」いや、11人を支える応援席から声援を送り続けるすべてのサッカー部員たちが主役であることを改めて実感する。毎冬スタンドに足繁く通う選手権ファンの拍手は、まるでそのことを知っているかのようだった。