身内感が創り出す熱狂と共に。
ノジマステラサポーターの眼差しは、さながら親のようだ。親しいという表現に”親”という漢字が用いられるように、女子サッカーチーム、ノジマステラサポーターが繰り出す応援スタイルは、まさしく親身の一言に尽きる。
創設6年目を迎えたノジマステラは、都道府県リーグから始まり着実にステップアップを踏んでいく。3度目の挑戦となった昨季の2部リーグで無敗優勝という快挙を果たし、今季、悲願のトップリーグ参戦に挑む。
神奈川県相模原市に本拠地を置くノジマステラは、家電量販店ノジマ(株式会社ノジマ)が創設した実業団形態のチームである。ノジマは以前、プロ野球の横浜ベイスターズの身売り騒動の際に買収に名乗りを上げたほど、スポーツ分野への進出に積極的な企業として知られているが、その背景には、地域との繋がりを大切にする姿勢を感じ取ることができる。その象徴的な存在がノジマステラサポーターではないだろうか。
ノジマステラには、創設当初から応援に駆け付けるサポーターがいた。太鼓を鳴らし、チャントを叫ぶ背番号12の集団は、シーズンを重ねるごとに仲間を引き寄せ巨大化していく。現在では、地方遠征に駆けつける者もいれば、足繁く練習場を訪れる者もいる。
熱狂的なノジマステラサポーターの綱藤氏
今回インタビューに答えてくれたのは、チーム創設2年目にあたる2013年から参戦しているという古参のサポーター綱藤雅博(あみとう まさひろ)氏だ。「友人からの誘いがきっかけだった。」と初観戦に至るまでの経緯を語ってくれた綱藤氏は、奇しくもノジマステラと同じ、神奈川県相模原市出身者である。以来、女子サッカーの魅力に完全取り憑かれてしまった彼は、ノジマステラサポーターとしてチームと共に歩む道を選択する。スタンドに駆けつけ、時間の許す限り練習場にも足を運び、地方遠征にも駆けつける。初観戦から瞬く間に熱狂的なサポーターへと成り変わった彼が語るノジマステラの魅力、そして彼らサポーターが抱く応援ポリシーを通じて、女子サッカー発展への糸口を探ってみたい。
ノジマステラサポーターの応援ポリシー
大和シルフィードに移籍した小林詩織選手へ。横断幕にアカデミー(ユース&ジュニアユース)の子達がメッセージを書いた横断幕授与した時の写真
(綱藤) 私が初めてステラサポーターの一員となって応援したのは、2013年、甲府で行われた皇后杯の関東予選、ASエルフェン狭山FC(現:ちふれASエルフェン埼玉)との一戦でした。今思い返しても、ノジマステラのベストな試合だったと思います。その時に初めて彼ら(ステラサポーター)と一緒になって横断幕を貼ったり、一緒になって応援して。それ以来、サポーターの一員として応援するようになりました。
――ステラサポーターとは、どんなグループなんですか?
(綱藤) コールリーダーをやっているのは、”せんちょ”と呼ばれている方です。その方は、元マリーゼのサポーターをやっていた経験を持つ人で、2012年のステラの最初の試合から、選手コールを作って、チームを応援していました。彼の呼びかけによって、他チームのサポーターをやっていた人が集まってきて、太鼓を叩く人や、面白いポスターを試合の度に作る人など、各々がそ得意とする役割を担っていました。
――ステラサポーターの応援スタイルは?
(綱藤) 応援の仕方は、Jリーグの試合でよく耳にするオーソドックスな形を取り入れていますが、Jリーグのそれと大きく違うのが、選手個人へ向けてのコールやチャントがものすごく多いんです。
――チームへの声援よりも、選手個人への声援が中心ということですね。
(綱藤) はい。「このプレーよかったね」とか「このプレーよくなかったけど頑張れ!」って。言い時も悪い時も選手を励ますようにコールしています。
――なんだかとっても優しい応援ですね?
(綱藤) そうなんです、とっても優しいんです。(笑)実は、応援のコンセプトがあって、最初にブーイングはやめましょうと。厳しい言葉は監督がお任せして、ボクたちは温かく応援しましょうという形でやっています。それよりも、いい歳したおじさんが、自分の娘や孫娘のような年齢の女性にブーイングするのってカッコ悪しですしね(笑)
かつてのフリーガンとは真逆のスタイルを貫くノジマステラサポーターの応援は、ともかく温かい。その温かさは、熱気を程良く逃がしてくれる、風通しが良いという表現にも置き換えられる。コミュニティーとは、とかく排他的になる傾向に陥りやすい。主義を掲げ、結束力が高まることによって、他者を寄せ付けない密閉された空間を作り出してしまうものだが、ノジマステラサポーターというコミュニティーは、誰もが気軽に出入りできる緩やかな繋がりを創り出しているのだ。
ステラサポーターは老人会?
サポーター主催の長野パルセイロ戦バスツアーでの記念写真
――ステラサポーターは平均年齢が高いと伺ってます。ボクは今43歳なんですけど、それならまだ若手だねって言われたのですが、それって本当ですか?
(綱藤) はい。老人会ですね。(笑)声出して、立って応援しているのは、30代、40代、50代の方々が中心ですが、着席して、温かく見守っている人たちの老人率はめちゃめちゃ高いですね。
ちょうど先日、ジェフユナイテッドが主管となって行っているなでしこ交流戦というのが千葉で行われました。その試合会場へは、車でないと中々行きづらかったのですが、よく試合や練習を見学されてる年配のサポーターに相乗りさせていただいたことになったんです。こういった仲間意識を持ってくれる、とっても優しい方が多いんです。
――スタジアムに駆けつけるサポーターの数はどれくらいになるのでしょうか?
(綱藤) 1000人はいますね。その中に、年配の方々は3割ほどいますね。アウェーになるとその割合はもっと増えて、主観では半分以上は年配者でしめているのではないかと思いますね。ぱっと見老人ばかりだなって。(笑)練習場(ノジマフットボールパーク)で行う試合になると、近所に住んでる老人たちで溢れかえるほどです。
――それって、なでしこならではの光景ですよね。
(綱藤) なでしこならではというより、ステラならではですね。
年配者が多くを占める、異色なノジマステラサポーターだが、そこに至る分岐点となったのが、田中陽子選手の加入だったと綱藤氏は振り返る。女子サッカー界のアイドル的存在の田中選手を一目見ようと、近所の住人たちが練習見学に訪れるようになった。それをきっかけに他の選手と地域の住人たちとの間にもコミニュケーションが生まれた。選手たちと直接触れ合うことができるファンサービスを重ねることで、次第に選手と地域住人との距離感が縮まったようだ。
選手たちは、株式会社ノジマの社員として、午前中に実務をこなす。所属は各々異なるものの、ほとんどの選手は店頭に立ち、接客することもあるようだ。チームが積極的に地域に歩み寄る姿勢、そして、彼女たちのひたむきなサッカーに取り組む姿に、高齢化が進む地域住人は、親心を抱いていったのであろう。
サポーターから見た1部リーグ初挑戦の展望
2016年シーズン開幕戦ギオンスタジアムにて
そしていよいよ、チームとサポーターの願いが結実した舞台、ノジマステラの1部リーグ挑戦が始まる。3連覇に挑む日テレ・ベレーザを軸に、4シーズンぶりの王座奪還に巻き返しを誓うINAC神戸。強豪がひしめく1部リーグの中で、果たしてノジマステラに付け入る隙はあるのか。飛ぶ鳥を落とす勢いで勝ち進んできたノジマステラ。敗北を知らないチームが初めて味わう危機が訪れるであろうと綱藤氏は語る。
(綱藤) ステラの実力は、1部に所属する他チームと比べて、低いと思います。得点が獲れるかどうか、やってみないとわからないけど、結構苦しいのではないかと、実は思っています。
その時に、たとえば長野パルセイロの場合だと、耐えてれば横山選手が点を獲ってくれてどうにかしてくれる。そういう気持ちがあれば、ずっと攻められても最後の最後まで耐え凌げばなんとかなるかもしれない。しかし、ステラの場合はもしかしたらそうではないかもしれない。
そうでなかった時に、もし先制を許してしまって「あぁ、もう今日はダメだ」と選手の気持ちが折れてしまった。そういう雰囲気って、サポーターにも伝わってくるんです。もしそうなった時にでも、決してボクたちはブーイングをしない。だって折れた気持ちが、更に折れてしまっては元も子もないし。
今年の目標は、選手たちの気持ちが折れないように支えること。劣勢の時に「最後まで頑張ろう!」「みんなで応援しよう!」「温かく見守ろう!」というような形の応援がちゃんとできないかなぁといろいろ考えたりしてるんですよ。
観ている人達も今まで負けた経験があまりないので負けに慣れてない、ステラは強いと思っているはずなので、その時に今日はいろいろやられてしまって負けそうだったりするんだけども、うちらが応援していることによって選手が最後まで頑張ってもらえたというような気持がもってもらえるんだとしたら応援としては大成功だと思っています。
「応援してたので勝てた」「応援に応えて頑張ってくれた。」というような実感が持てるとすごく応援をやっていてよかったなと思えるのです。一緒に応援している仲間とそんな実感が共有できたら最高です。
チームと共に歩む。それは苦楽を共にする覚悟を決めるということ。ノジマステラサポーターの存在価値は、如何に熱狂的かどうかでない。彼らがチームに抱く当事者意識ではないだろうか。ノジマステラが創り上げた身内感こそが、今後の女子サッカー発展のキーワードになりそうだ。
綱藤 雅博(あみとう まさひろ) 通称:あみりん 日産スタジアムのバクスタ2階を根城にするマリサポ。ノジマステラの初観戦で女子サッカーの魅力に気づき、昨年は練習試合を含めて180試合以上観戦。 IT関連企業の運用部門に所属しているため、何かサポーター活動やろうとすると良くも悪くも運用設計を考えてしまう。 |