サッカー馬鹿

2017.6.21

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飽くなきチャレンジで、女子サッカー界に革命を起こす!<日体大FIELDS横浜 矢野晴之介監督インタビュー&取材後記>

飽くなきチャレンジで、女子サッカー界に革命を起こす!<日体大FIELDS横浜 矢野晴之介監督インタビュー>

なでしこリーグには、様々な運営形態を持つチームが混在する。浦和レッズレディースをはじめ、Jリーグクラブの下部組織として活動するチームもあれば、INAC神戸レオネッサやノジマステラ神奈川相模原のように企業が母体の実業団クラブもある。

近年では、オルカ鴨川FCのように地域性を前面に押し出すチームや選手育成を目的としたJFAアカデミー、そしてNPO法人や一般社団法人といった非営利団体として活動するチームもある。運営形態の多様化に伴い、活動目的も異なるようだ。

一方で、大学を母体に活動する、他のスポーツ界ではあまり考えられない、一風変わった運営形態で活動するチームが存在する。その一つに挙げられるのが、日体大FIELDS横浜だ。日体大FIELDS横浜は、その名の通り、日本体育大学を母体に、東証一部上場企業のFIELDS株式会社のサポートの元に、横浜市青葉区を拠点に置く女子サッカーチームである。

今回インタビューに応じて頂いたのは、日本体育大学准教授の肩書きを持つ、日体大FIELDS横浜の矢野晴之介監督である。既成概念を打ち砕き、逸脱の発想で力強い歩みを続ける、志士の思想に耳を傾けてみたい。

女子サッカー界に革命を起こす

©NITTAIDAI FIELDS YOKOHAMA

――日体大FIELDS横浜が、なでしこリーグ参入に至った経緯をお聞かせください。

(矢野) そもそも我々は、大学女子サッカー部としての活動にとどまっていました。関東大学リーグ、そしてインカレ。それに加えて、関東女子サッカーリーグに参戦していました。そこには、メニーナさん(日テレベレーザの下部組織)やレッズさん(浦和レッズレディースの下部組織)、大学生チームから高校生チームまで出場しているのですが、その繰り返しを何年かするうちにリーグの方から、チャレンジリーグとなでしこリーグを立ち上げるが、その中に、高体連であれば常盤木学園さん、大学であれば日体さん、ぜひ参入しないかというお話をいただきました。

ちょうどその頃、私も悶々としていました。インカレも優勝したり、時の運で負けたり勝ったりという中でそれを繰り返していくのもいいのですが、学生たちにもっと高いステージを味合わせてあげたい。そして、自分のステージも上げたい。大学女子サッカーに革命を起こせるのではないかという野心もありました。

 

――矢野監督が思い描く革命とは、どのようなものなのでしょうか。

(矢野) 大学を母体とした女子サッカークラブが、トップリーグにチャレンジすることです。その舞台で結果を残すことで、学校体育の可能性を世に知らしめたい。日体大の学生たちは、授業でも運動して、放課後も練習できる。社会人の選手よりも、むしろ環境は良いのではないかと思います。既存の大学生チームに加えて、卒業生をチームに残していく。それができる環境を整えて、新しい形の大学を母体としたチームを作っていくという取り組みですね。

 

――既存の日体大女子サッカー部の、その上のカテゴリーを作るという構想ですね。

(矢野) そうです。ただ問題もありました。なでしこリーグを戦うということは、膨大な予算が欠かせません。チームに社会人を残すのも雇用先が必要です。そのことを、日体大の理事長、松浪健四郎先生に相談しました。2部に上がりたい、1部にも上がりたいですけど、先立つものがありませんという話をさせていただいたら、「それは俺に任せろ。」ということで、FILDSさんという東証一部上場企業をスポンサーとして紹介していただきました。

 

――大学が母体のクラブに出資をする。スポンサーにメリットはあるのでしょうか。

(矢野) 正直なところ、費用対効果なんて全くありません。ただ、私の熱意と夢に賛同してくれたというだけです。他の大学もスポンサーは募っていると思いますけど、給料も雇用体系も労働時間も申し分ないですし、抜群の環境を整えることができていると自負しています。トップチームに在籍している選手は、FIELDSが経営をしているトータルワークアウトというスポーツクラブで働いています。セカンドキャリアも希望すれば、そのまま社員になれます。

 

――日体大FIELDSは、大学を母体とし、大学女子サッカー界の価値を上げていきたいということですが、矢野監督が想い描く理想形を教えてください。

(矢野) 我々は、横浜市青葉区を拠点に活動していますが、青葉区の方々に、わが街には日体大FIELDS横浜があると思ってもらいたい。逆に、日体大FIELDS横浜を通して横浜市青葉区を知ってもらいたい。本当の意味で地域に根差したいと考えています。日本のスポーツの成り立ちは、トップができ、協会ができ、クラブを統括するのは連盟であることが一般的ですが、一つのクラブが、果たしてどれくらい深く地域と関わることができるのか、チャレンジしてみたいですね。

 

――具体的にどのような取り組みを考えているのでしょうか。

(矢野) まず横浜市青葉区の小中学生、そして高校生の、サッカーがしたいという女子であれば、レベルを問わず、私たちは受け入れています。もちろん月謝は払っていただくなど、少しの条件はありますが、サッカーができる環境を提供すること、そして、指導を提供しています。

 

――矢野監督は、ドイツとオランダでの留学経験をお持ちですが、大学が地域に根付くという形は、海外では珍しくはないのでしょうか。

(矢野) ドイツでは、私立が少なく公立の学校が一般的ですので、日常的に市民の方々が学食で食事を摂っていますし、教室も一般開放しているのは当たり前です。市民の税金を使っていますしね。逆に、オランダの学校の授業では、近くのサッカークラブの芝生のグラウンドを借りてタッチラグビーをやったり、カヌークラブの池を借りてカヌーの授業をしたり。大学は、地域との深い関わり合いがありました。それと比べると、日本では私立大学が多く、プライベート感が強い。

私は、大学という場所が、総合型地域スポーツクラブの拠点になればいいのではないかと思っています。地域の方たちと協力して、大学に地域の方がいっぱい来て、私たちも出向いていったりしながら、少しずつ垣根をなくしていきたいですし、逆に大学を動かせるくらいの存在になりたい。日体大の中で下部組織を保有して社会人リーグに出ているのは女子サッカーだけなので、他のクラブもこれと同じように一緒にやってくれれば、日体大における総合型のスポーツクラブが出来上がります。

悪しき伝統を断ち切る勇気

©NITTAIDAI FIELDS YOKOHAMA

――日体大FIELDS横浜は、今シーズン10戦を終えて、2部リーグの首位を走っています。競技力の高さは証明されていますが、地域に根差すというミッションにおいて、観客動員という説得力に欠けているような気がします。ホームスタジアムがないという問題など、様々な課題はあるかと思いますが、集客においてどのような取り組みを実践されていますか。

(矢野) 日体大だけで集客できるのは100名くらいというのが現状ですね。まだ、チームが動き始めたばかりなので、チケットも扱ってはいません。まずは広くみなさんに観ていただきたいと思っています。女子サッカーを応援してくださる方、選手を応援してくださる方、チームを応援してくださる方、そして地域の方々に観てもらえるような工夫をしていくべきですが、現段階では、そういったところに割く時間と人員が足りていません。

甘いかもしれませんが、純粋にサッカー観戦を楽しみたい人、もしくはサッカーの内容、サッカーのチカラで人を惹きつけていきたいと考えています。うちの選手は、どこのチームの選手たちよりも走れる、そして強い。勝っていようが、負けていようが、一生懸命やる。そのひたむきさ、そのチームワーク、そういうものを感じてもらうことが、観客動員につながるのではないかと思います。

 

――高い競技力は、日体大の真骨頂ではないかと感じています。日体大ならではの、日体大流という伝統があるのでしょうか。

(矢野) 日体大流はありましたが、私が壊しました。上下関係を排除しました。学年で区別されることに意味はない。選手とスタッフという括りだけで十分です。ただ人として、年上の人を敬いなさい、年下の人をしっかり面倒みなさいという当たり前は必要ですが、これを規則にしてしまうと、罪が出てきて、それに対して今度は罰が出てくる。これは決して子供たちにとって良い環境ではないと感じて、一念発起して変革に踏み切りました。

私もこれまで10年間やってきて、自分も立ち入れないくらいの伝統がありましたが、やはり、形だけ受け継いでも、その精神を受け継がなくては意味がない。その悪しき伝統が一人歩きして、辞めていく子も沢山いましたし、辞めていく子は弱いと言われる。毎年、卒業生が挨拶しに来てくれますが、いつも「緩くなりましたね。」と言うのですよ。一体これは何なんだろうかと。

少しずつ変えていきました。これまでは、1年生は、集合時間の2時間前に来て準備をしていました。2年生はその一時間後に来る。3年生は30分前に来て、4年生は自由。私が知らない決まりごともたくさんあったみたいでしたが、1年生は1年間お客様にして、2年生が準備しよう。これを始めたのが5年前でした。そのきっかけは、1年生が全員、私のところに来て、もうサッカーを続けられません、全員辞めますと言ってきた時に、それなら君達が2年生になったら、もう一回1年生でやったことをやってくれるか?と尋ねたら、私たちは構わないと言ってくれました。そこから変えてきましたが、それでもまだまだ納得ができず、今年、部員全員に向けて手紙を書きました。

 

――選手からの反響はいかがでしたか。

(矢野) 上下関係が当たり前のように育ってきた子たちなので、大賛成ですという子もいれば、私たちがしてきたことを否定された気持ちになるという子もいましたね。

今の子供たちは教わりすぎて遊べません。ミニゲームやるから遊べと言っても遊べない。真面目という表現が相応しいかどうかはわかりませんが、奇想天外な発想をするとか、相手の意表を突くとか、そういったことが苦手な子が多い。サッカーなんて元々は遊びですし、相手を欺く面白さがあります。構造とかシステムに囚われ過ぎない。常に楽しみ、常に全力で、常に諦めない。そして、常に強くあって欲しいですね。

 

――矢野監督が考えている、女子サッカー界が取り組むべき課題はありますでしょうか。

(矢野) 女子サッカーらしさを皆で見つけていく。競技力はともあれ、エンターテインメント性も含めた女子サッカー、Jリーグにない楽しさを、女子サッカーに携わる人、もしくはスポーツに携わる人皆で見つけていくことが大事だと思います。

そして、面白さを追求する。ルールを変えてしまうくらい面白さを追求する。PKをやらずに、メジャーリーグで昔やっていたように、ハーフラインからキーパーと1対1をやってみるとか、コーナーキックは全部ペナルティーエリアの角からやるとか、オフサイドはなしとか、ふざけているわけではなくて、真剣に面白がる。

トップチームと下部組織と一体となって試合をして、こっちは3対0で勝った、こっちは0対3で負けたら、引き分けみたいな。そしたら必ず下部組織の育成にも力を入れると思うんです。それから、ドイツのブンデスリーガでやっているように、地元出身の選手を3人、トップチームに上げなくてはいけないというルールを作る。そういった取り組みを女子サッカーが率先して行う。そういった試行錯誤を繰り返して、女子サッカーらしさを皆で見つけていくことが大切だと思います。

 

――本日はお忙しい中、ありがとうございました。

矢野晴之介(やの せいのすけ)
 1977年生まれ

出身地:静岡県

日本体育大学 体育学部 体育学科 准教授

所属:日体大FIELDS横浜/日体大女子サッカー部監督

経歴:日本体育大学(オランダ留学)卒業→日本体育大学大学院(ドイツスポーツ大学ケルン留学)修了→筑波大学大学院修了

 

【取材後記】

広大な敷地には、様々な競技に勤しむアスリートたちの声が木霊する。

東急田園都市線、青葉台駅からクルマで10分ほどの距離にある日本体育大学 横浜 健志台キャンパス。閑静な住宅街に突如として現れた体育の聖地に圧倒された。

この素晴らしき環境、そしてこの地に息づく伝統。この地から発信される矢野監督の想いは、今後の女子サッカー界に革命をもたらすかもしれない。

過渡期と叫ばれる近年の女子サッカー界だが、実はそうではなく、今こそが成熟期なのではないか。これまでの形を継承しつつ、その中心に浮かび上がる大切な要素を元に、各々が新たな取り組みに試行錯誤する。次なる最盛期を迎えるために、準備は着々と進行している。

文面でお伝えした通り、近年の女子サッカー界は、様々な形態で運営に勤しむクラブがある。掲げている理想も、アプローチもそれぞれだが、皆一様に女子サッカー界発展を願う想いに相違はない。

不確かな未来へ向けて。成熟期に培われた知恵は、近い将来花開くのではないだろうか。志士の思想に耳を傾けて、胸踊る気持ちが抑えられなくなった。

〈了〉

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