日記

2019.2.21

志高き者たちの物語

志高き者たちの物語

先月終盤あたりから読み進めていた『竜馬が行く全8巻』を読了した。『竜馬が行く』はご存知、司馬遼太郎著の代表作のひとつです。読んだことある人も多いんじゃないかなぁ。

そのページをめくるのは今回で2回目となる。以前は高3の頃まで遡る。どうして今にして再読に至ったのかというと、ふと、盟友がこぼした一言を思い出したから。

「あれは名作だよね。カンペキ!」

こう語っていたのはボクとほぼ同じ時期、14年前に独立開業した歯科医。彼はボクが独立する以前から担当しているお客さまでもある。

歯科医院を営む家に生まれた彼は俗に言うボンボンでした。初めて彼のヘアカットを担当した16年前、当時の彼はタイでの豪遊旅行を楽しんでいた医学生、赤いフェラーリに乗って来店したこともあった。

なぜ、住む世界のちがう彼と仲良くなったのかというと、互いに独立を目指していたから。彼が目指す独立は事業承継ではなかった。親元を離れて自分の城を築くこと、ボクは独立心旺盛な彼とすぐに意気投合した。

その彼が「カンペキ!」と言い放った一冊を今更ながらに読みふけったというわけ。

『竜馬が行く』司馬遼太郎著

さてさて二度目の『竜馬が行く』だ。この本は幕末から維新を暗躍したスーパーヒーロー坂本龍馬の生涯が描かれています。黒船来航を機に鎖国を貫く攘夷思想が蔓延、徳川家繁栄を願う佐幕派と新政府の台頭を目論む倒幕派と国中が真っ二つに割れた激動の時代の中、そのどちらにも属さずにただひとり日本の理想の未来像を掲げた竜馬。とりわけ彼の志の高さは卓越していた。

“人の一生というのは、たかが五十年そこそこである。いったん志を抱けば、この志にむかって事が進捗するような手段のみをとり、その目的の道中で死ぬべきだ。”

最終的に新しいニッポンの夜明けを見ることもなく暗殺によりこの世を去ってしまった竜馬でしたが、竜馬の人間力、彼の生き様に魅せられた読者も多いはず。盟友の歯科医もおそらくそういうところに感化されたに違いない。

志とは何だろうか。

目標、方向性、信念、生き方、命題、ざっくりではあるけれど、そういったことを今一度見直す機会なのではないかと、そんなことを考えています。

さらに竜馬はこんな名言も残している。

“金よりも大事なものに評判というものがある。世間で大仕事をなすのにこれほど大事なものはない。金なんぞは、評判のあるところに自然と集まってくるさ。”

『竜馬が行く』はボクたち商売人にとっても大きな気づきを与えてくれている。

『坂の上の雲』司馬遼太郎著

明治維新を成し遂げ、近代国家として歩み始めた日本。そのつづきがどうしても読みたくなりつい手にとってしまったのが同じく司馬遼太郎著の『坂の上の雲 全8巻』だ。『坂の上の雲』はすでにテレビドラマ化されていて、その名に聞き覚えはあるものの実際に触れたのは今回が初めてでした。

物語は海外の列強国の支配が迫るなか、維新を成し遂げた新生日本が初めて一丸となって戦った日露戦争について描かれています。圧倒的不利な戦況に対し、名将たちの作戦が奏功し逆転劇を生む。ページを追うごとに生々しい戦争描写がつづいていくのですが、ボクが感銘したことはそれ以外のことでした。

明治時代以前、江戸時代における日本には士農工商という身分制度に縛られていました。将来が義務付けられていたのです。その後の明治維新から一転、日本人は束縛から解放される。自由を謳歌するために彼らが真っ先に取り組んだのが学問でした。当然のことながら義務教育ではありせん。

以前、師匠(藤村正宏先生)が話されていたリベラルアーツの話を思い出した。リベラルアーツの日本語訳は「教養」直訳すると「自由になるための業」となるそうです。自由を謳歌するためにはどうやら教養を身につけなければならないらしい。ボクはこう解釈した。物語の背景はまさにその時代なのだ。

当時は新しい価値観が生まれやすい土壌があったのではないかと推察できる。物語に登場する三人の主人公(秋山 好古、秋山 真之、正岡子規)はともに教養により歴史に名を残した人物でした。

『坂の上の雲』を読んでみて改めて横須賀にある三笠公園を訪れてみようと思った。日露戦争で大活躍した戦艦三笠と東郷平八郎の銅像、その傍にある資料館を見学するのも悪くない。

それにしても日露戦争におけるバルティク艦隊が撃ち破った連合艦隊司令長官 東郷 平八郎のリーダーシップは圧巻でしたが、このあとボクはさらなる凄腕リーダーと出会うことになる。

『海賊とよばれた男』百田尚樹著

その人物の名は「国岡 鐡造」。出光興産の創設者 出光 佐三をモデルにした百田 尚樹著『海賊とよばれた男』の主人公だ。

『海賊とよばれた男』を読もうと思ったきっかけは父親のススメでした。たしかもう5年ほど前だったような気がしています。ボクは父親から引き継いだ重量感たっぷりの単行本(初版)を脇に抱えた。

「国岡商店の理念は”人間尊重”である。」

舞台は瓦礫の山と化した戦後の東京。あらゆる資産を差し押さえられ、尚且つ先の見通しもつかない、誰もが途方に暮れていたにもかかわらず、一千人を越える在籍社員をひとりとして解雇せず「人は財産」だと叫び度重なる逆境を乗り越え、偉大なる事業を成し遂げた国岡 鐡造の生涯。

あまりの熱量にたじろいでしまう。正直なところ、これが読了直後の感想でした。こうなりたいと思うと同時に、こうなれるはずがないと諦めてしまう。開いた口が塞がらずにただただ傍観してしまう、圧巻とはこういう状況を表しているのだと思う。なぜボクは主人公に圧倒されてしまったのだろうか。冷静に考えてみると、あっけなくその答えにたどり着いた。

志が段違いに高い。
ミッションが崇高であり信念がある。
圧倒的な行動量、その全てが迅速である。

『海賊とよばれた男』の主人公 鐡造も、『竜馬が行く』の坂本龍馬も、そして『坂の上の雲』の主人公たちも、彼らには個人的な損得勘定はない、彼らには大義があった。

“日本のため”に成す。残念ながら今のところボクのビジネスにはそのような大義はない。自分の夢を叶えたい、そして豊かな生活を送りたい、文中の主人公たちと比べて自分は何と小さな人間なんだろうか。

一段でも高く、高い”志”を掲げてみよう。そんなことを改めて考えています。日本のためにとは言わずとも、地域のために?業界のために?いや、まずはスタッフのために、家族のために。他の誰かのために考え、行動することを厭わない。

盟友の歯科医は決まって月に一度、ヘアカットに訪れてくれる。施術中の会話の多くは他愛のない話ですが、これまでの来店回数は192回あまり、振り返れば、徐々にではあるけれど、少しくらいマシな話ができるようになったのかなと感じます。

本音を語り合える友の存在に感謝したい。

追記になりますが、『坂の上の雲』のあとがきに書かれていた著者 司馬遼太郎さんの言葉が印象的でした。「この作品には、取材5年、執筆4年3ヶ月、40代のほとんどを費やした。」全8巻の大作を完成させるために、どれほどの苦悩があったのか。それはまさしくプロが成せる業、プロとしての在り方を教えられました。

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