この本はサポーターやスポンサーに捧げるだけではもったいない。ビジネスリーダーこそ読むべき一冊だと思う。
もちろんサッカー好きでもそうでなくても。
ところで、あなたは湘南ベルマーレというサッカーチームをご存知だろうか。
「あ〜 中田英寿がいたチームね」
「そういえば今、ベルマーレってJ1なの?」
少なくともボクの周りにいる多くの人はこのように返してくる。
そう、一般的にはその程度の認識でしかないのだ。
2018年、創立50周年を迎えた湘南ベルマーレは、かつてはベルマーレ平塚を名乗り、中田 英寿、岩本 輝雄ら多くの日本代表選手を輩出。強豪クラブの一つに数えられていた。
ところが、メインスポンサーのフジタが撤退したことによりクラブは存続危機を迎えてしまう。これは1999年のこと。(フジタは2017年に再びスポンサーに復帰している)
市民クラブとして出直しを余儀なくされたベルマーレ平塚はその名を湘南ベルマーレと改め、現在はホームスタジアムを構える平塚市をはじめ、温泉地として有名な箱根町や古都 鎌倉市を含む7市11町をホームタウンとし活動している。
しかし、チームは1999年シーズンのJ2降格以降、低迷がつづいていた。
J1の舞台に返り咲いたのは、それから11年後のことだった。
念願のJ1昇格を果たした湘南ベルマーレだが、その後、7度にわたりJ2降格とJ1昇格を繰り返し、来たる2018年、ついにクラブ史上初のルヴァン杯戴冠を成し遂げた。
国内タイトルの獲得は24年ぶりのこと、奇しくもクラブ創立50周年のメモリアルイヤーだった。
この物語は、湘南ベルマーレルヴァンカップ初制覇の裏側が描かれている。
ただし登場人物は選手だけではない、
就任7年目(2018年時点)長きに渡りチームの指揮をとる曹貴裁(チョウ キジェ)監督、舞台裏を奔走するフロントスタッフたち、スタジアムを彩るスタジアムDJとコールリーダー。
彼らはミッションを共有するチームメイトだった。
「誰のために仕事をするのか」
「何のために仕事をするのか」
湘南ベルマーレ 水谷 尚人社長は常々社員たちにこう投げかけているそうだ。
湘南ベルマーレにとって、2018年は変化に富んだ一年だった。とりわけ印象的なのは、RIZAPグループ入りの表明だった。
新会社「株式会社メルディアRIZAP湘南スポーツパートナーズ」が湘南ベルマーレの株式の50%を取得する。それと同時にRIZAPグループが本格的にクラブ運営に関与、今後3年間で10億円を投資する意向という内容である。
もし自分が湘南ベルマーレの幹部社員だとしたら、簡単な決断ではなかったはずだ。なぜならそれを受け入れることで、その後の自分の立場が保証されていないからだ。
変化を拒まず成長の機会と捉える。
まさに「何のために」「誰のために」仕事をしているのか、首脳陣自らが示してみせたのだ。
さらに湘南ベルマーレ 眞壁 潔会長は文中でこう語っている。
「選手が成長のために移籍するのは構わない。ただ選手のなかではベルマーレに残りたい気持ちもあるが選手寿命や家族のことを考えると高い年俸を提示してくれるクラブに移籍せざるを得ない選手もいる。」
その想いに応えるための決断だった。
これらのエピソードはほんの一例に過ぎない。本書で語られる関係者による数々の証言が湘南ベルマーレの魅力を表している。
そもそもなぜRIZAPグループは数あるJリーグクラブの中から湘南ベルマーレに関心を抱いたのだろうか。
ことの真相は文中にある「RIZAPグループ社長 瀬戸 健氏と湘南ベルマーレ社長 水谷 尚人氏の対談」で描かれている。
湘南ベルマーレには「湘南スタイル」という合言葉がある。
湘南スタイルとは、選手が連動しながら90分間、休むことなく走りつづける。勝敗にかかわらず一貫してその姿勢を貫く。湘南ベルマーレが追求する”湘南らしさ”を表す言葉だ。
なぜ彼らは走りつづけられるのか。
いや、走りつづけているのは選手だけではない。スポンサー、サポーター、スタジアムDJ、フロントスタッフ、クラブにかかわる全ての人が仲間のために汗を流すことを厭わない。
しかも彼らは一様にたのしそうなのだ。
本書のタイトルとなる「たのしめてるか。」は湘南ベルマーレが掲げるスローガンでもある。
彼らは常に「たのしめてるか。」と自問自答している。彼らはいつもスタジアムに訪れる観客に向けてそう問いかけてくる。
そして本書を手に取った読者にも。
(勝村 大輔)
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