明治安田生命J1リーグは4月に入り第6節を迎える。これまでの戦績を振り返ると、首位につけるのは風間体制3年目の好調名古屋、以下、東京、広島が勝ち点差1で追走する格好。とりわけ出遅れているのは降格圏を彷徨う3チーム、仙台、清水、磐田はいずれも未勝利がつづいている。
奇しくも湘南は直近の三試合で不調に喘ぐこの3チームとの対戦がつづいている。第4節ホーム仙台戦(2-1◯)第5節アウェー清水戦(1-3◯)そして次戦にあたる第6節はホームに磐田を迎える。
現在、湘南は5位につけている。開幕戦はミシャ監督のもと超攻撃的サッカーを展開する難敵札幌を降し(2-0◯)第2節、長谷川体制2年目、チームの完成度が逸脱している東京に敗戦(2-3●)つづく第3節はアジア王者鹿島相手に退場者を出しながらも惜敗(0-1●)敗戦の二試合に対して曹貴裁(チョウ キジェ)監督はいずれも手応えを口にしている。
強豪相手に一歩も引かず、不調の相手にきっちりと勝ち点を積み上げる。就任8年目、曹監督が提唱する”湘南スタイル”の完成度は高まるばかりだ。従来のメンバーに加え、今シーズンに向けて大補強を敢行。新メンバーの台頭が厚みを織り成し「誰が出ても変わらない」充実の戦いを繰り広げている。
第5節を終えた時点で5位につけている湘南ベルマーレ。この戦績を”好調”と位置付けるのは早計かもしれない。しかし昨季、最終戦までもつれ込む残留争いを演じたチーム状況を踏まえれば、上々のスタートと言い切ってもいいのではないだろうか。
これまでの5節での戦いぶりを振り返りつつ、下記に湘南ベルマーレ好調の要因を挙げてみた。
【急造3バックの健闘】
第2戦(東京戦)で負傷離脱を余儀なくされた坂 圭祐に代わりセンターバックを任されているフレイレ(清水から完全移籍)は第5節(清水戦)で古巣相手に完璧なパフォーマンスを披露、鄭 大世(チョンテセ)相手に対人プレーの強さを見せつければ、CKのこぼれ球にいち早く反応に決勝点を叩き込むなど期待どおりの活躍を見せている。
一方では今季主将を務める大野 和成のメンバー外によりJリーグデビューとなった小野田 将人の活躍も目覚ましい。JFL FC今治から期限付移籍で加入した異色のキャリアを持つ小野田はリーグデビュー戦(仙台戦)でいきなりゴールを記録。奇しくもこの日は山根 視来もゴールを挙げるなど、ポジションの枠にとらわれず果敢なオーバーラップを仕掛けた二人のセンターバックがこの日挙げたすべての得点を叩き出した。
リーグ序盤戦において3名のセンターバックのうち2名を欠いてしまう。緊急事態とも受け取れる窮地をいともあっさりと反転させてしまう。急造ディフェンス陣の健闘が好調湘南のひとつの要因に挙げられる。
【冴え渡るルーキーたち】
開幕戦(札幌戦)でプロデビューを果たした大卒ルーキー大橋 祐紀。昨季、中央大学在籍時、特別指定選手として最終節(名古屋戦)でピッチに立ったが、プロとして初のリーグ戦出場は途中出場途中交代ながらも攻撃面においてインパクトを残した。
交代の理由を曹監督は「1枚カードもらってたので遮二無二突っ込んでもう1枚もらったら」と説明しながらも「アイツも初めてにしては前への推進力を見せて非常にいい部分を出したと思います。」と付け加えている。当面はリザーブとしての立ち位置がつづいているがカップ戦の活躍次第ではスタメン抜擢も十分にあり得るだろう。
とりわけ印象的な活躍を見せているのが高卒ルーキー鈴木 冬一だ。長崎総合科学大学付属高校卒、かの名将小峰監督仕込みのウイングバックはルヴァンカップGS長崎戦でさっそくの凱旋デビューを果たすと、第3節(鹿島戦)でベンチ入り、71分に武富と代わりにピッチに立った。
鈴木 冬一の特長は果敢なドリブルチャレンジだけでなく、ワンプレーで流れを変えられる独特のリズムを持っている。本来、左サイドが主戦場だがリーグ戦では右サイドを卒なくこなす器用さを持ち合わせている。
第4節(仙台戦)は出場停止の岡本 拓也に代わり右ウイングバックでスタメン出場。カットインから中央に持ち出しミドルシュートを放つなど、得点の匂いを漂わせながらも、第5節(清水戦)では体を張ったディフェンスを披露するなど守備面でも大きく貢献した。
清水戦では出場停止明けの岡本に代わりスタメンを勝ち取った鈴木 冬一の台頭はチームの起爆剤となっているはずだ。
【新境地を拓いた松田天馬】
昨季の開幕戦でプロデビュープロ初スタメンを果たした松田 天馬。この日プロ初アシストを決め華々しいデビューを飾った松田だが、その後不遇がつづいていた。
昨季優勝を成し遂げたルヴァンカップ決勝戦では途中出場途中交代、わずか16分間でピッチを去ることになる。
当時の会見で曹監督は「潜在能力はめちゃくちゃ高い。難しい展開だったが、勝ち負けとは別に本人に分からせたい。この舞台での途中出場途中交代は、めちゃくちゃ恥ずかしいと思う。彼にとって大事だと思ったし、今日の優勝を心から喜べていないことが次のリーグ戦につながる。ここが終わりじゃなく通過点なので、チームと自分とのバランスをもう少し考えてほしい」と叱咤。
こうして迎えた今季、開幕戦(札幌戦)のスタメンに松田 天馬が名があった。任されたポジションはシャドーではなくボランチだ。ひとつ下のポジションに立った松田は水を得た魚のように躍動。好調を維持したまま迎えた第5節(清水戦)待望のゴールが生まれた。
「人間というのは、自分にマイナスの矢印がきた時に、それを目を向けないで相手が強いとか風が強かったと言って流してしまうと、次の日もその次の日も、まったく変わらない。でもアイツは、このオフで自分がプロとして生きていくためにどういうプレーをしなければいけあいかということの覚悟をしたと思います。」と曹監督は称賛を贈った。
攻守にわたり存在感を発揮している松田 天馬。間違いなく上位浮上のキーマンになるだろう。
今後、J1リーグはルヴァンカップを含む連戦が予定されている。多くの他チームはターンオーバーを敷くことが予想されるが、湘南にとって今季のルヴァンカップは二連覇が懸かる特別な意味合いを持つ。カップ、リーグにかかわらず調子を上げてきた選手が次々にピッチに送り込まれる、熾烈なポジション争いがさらなる高みへ誘ってくれるに違いない。
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