ジェフ愛を継いで。勝敗を超えた感動を与え続けるために。<ジェフユナイテッド市原・千葉レディース 三上尚子監督インタビュー>
近年、なでしこ1部リーグを主戦場に安定的な戦跡を刻み続けるジェフユナイテッド市原・千葉レディース。1992年の設立から着実なステップを踏み、長きに渡り存在感を示すその背景には、オリジナル10(Jリーグ開幕に参戦した10チーム)から今もなお”J”に君臨するトップチームと共に受け継ぐ哲学がある。
~WIN BY ALL!~全員の力で勝つ。ジェフ愛、ジェフらしさを強調するのは、今回インタビューさせて頂いたジェフユナイテッド市原・千葉レディースを牽引する三上尚子監督である。選手時代の多くをジェフと共に歩み、引退後は同チームのアンダー世代の育成に尽くす。ジェフ愛を捧げつづける三上尚子さんは、なでしこリーグ1部最年少監督としてその名を馳せている。
就任4年目の戦いに挑んだ三上監督、彼女がこれまで歩んできた道程を振り返り、ジェフユナイテッド市原・千葉レディースの現在地、そして今後の展望を紐解いていきたい。
リーグ最年少監督の船出
――指導者を志したきっかけを教えてください。
(三上) 本当は教師になろうと考えていました。教育に興味があり、大学で勉強していたのですが、転入やケガのタイミングが重なり、結局日本で教員免許を持つことはできませんでした。その後、アメリカの大学を卒業して、その折に、自分が志した教育と、これまで歩んできたサッカーを生かせる場所はないかを考えて、その結論が指導者という道でした。
――アメリカでの経験が三上監督の進路を決定付けたのですね。アメリカの大学では、どのような学びがあったのでしょうか。
(三上) 当時、日本における女子サッカーはマイナースポーツでした。ところが、アメリカでは、女子サッカー人気は高く、サッカー人口も多い。女性スポーツに対する考え方、受け入れ方、盛り上がり方に大きな違いがありました。その背景にあるのが、女性の積極的な姿勢でした。元々私は、コミュニケーションが得意ではありませんでしたが、アメリカでは、自己主張することの大切さを学びました。いろんな人と会う、積極的にコミュニケーションする。そういった前向きな気持ちを持つことで、やろうと思えばできる、変えようと思えば変えられることを、苦しんでいる子供たちに伝えたい。そう思ったことが指導者の道への始まりですね。
――その後、ジェフ市原・千葉レディースを引退して、アンダー世代のコーチに就任されたわけですね。若年層の指導に尽力された4年間でどんな気づきがありましたか。
(三上) サッカー以外のことで、たくさんの勉強をさせてもらいましたね。小学生から上がったばかりの選手たちとチーム活動をとること。保護者との理解を深め、上手に連携をとること。「挨拶大切だよ。」「食事しっかり摂ろうよ。」など、サッカー選手としてだけでなく、一人の人間として成長すること。その重要性を伝える難しさを感じました。ただそこには面白さもあるし、自分がやりたかったことでもありますから。選手とのコミュニケーションの大切さを学びましたね。
――ジェフ市原・千葉レディースにはアンダーカテゴリー出身の選手が多く活躍されていますが、それは育成に携わってきた三上監督ならでは理想形なのでしょうか。
(三上) クラブにアンダーカテゴリーがあるということは、やはり上のカテゴリーに繋がるような選手に育てるべきだと思いますし、外からの選手との組み合わせも大切です。両者がうまく融合することで、地域に根付いたクラブとしての下地が出来上がるのだと思います。そういう意味でもアンダーカテゴリーの選手は大切な存在でもあります。私が関わってきた選手が、今レディースにいますが、今の中学生、高校生の試合もできる限り出向くようにしています。
ジェフ愛を育む〜WIN BY ALL!〜
――ご自身の出身地でもあり、選手時代から含めて長きに渡りクラブと共に歩んできた三上監督ですが、選手たちにどんな想いを託されているのでしょうか。
(三上) 「このクラブのために」そういうクラブ愛の強い選手は、アンダーカテゴリーの選手に多いと思います。私も千葉県出身で、千葉県の中で育てて頂いたので、何らかの形で千葉県の女子サッカーに貢献したいと思っていますし、だから今私はここにいます。クラブ愛を持った選手が育ったり、もちろん選手としてだけでなく、指導者という形で、この千葉県だったり、千葉市市原市に戻ってきてくれると嬉しいという強い思いがあります。
――三上監督が感じるジェフ市原・千葉レディースは、どんなチームでしょうか。
(三上) スター選手がいるわけではありませんが、根性のある選手が多いですね。一人一人が目立つ選手でなくても、11人全員がチームのためにハードワークを厭わない。オフェンスの選手は、しっかりハードワークしてディフェンスする。ディフェンスの選手もしっかり攻撃に関わる。そうすることで、11プラスαを生み出すチームになる。粘り強いチームにしたい思っています。
――三上監督は、なでしこ1部リーグの最年少監督でもあり、選手にとっては、同じクラブでプレーしてきた先輩でもあります。選手との関係性はどのような感じなのでしょうか。
(三上) 歳が近いということもあり、オフの時は友達のような距離感で笑いあったりすることもありますが、ピッチ上ではピリッとラインを引いたりするので、怖がられているのかな。(笑)メリハリがありますね。
――まるで部活の先輩後輩のようですね。(笑)では、同じクラブの先輩として、選手たちにどのようなことを望まれていますか。
(三上) 単純にルールは守る。当たり前を当たり前にやる。例えば毎回の練習トレーニングは100%でやれる状況を作ってきて欲しい。サッカー選手としてのコンディション作り、モチベーションは100%であるべきだと思う。プロフェッショナルであるべき姿勢を大切にして欲しいと思っています。そして、やはりジェフらしさを大切にして欲しいですね。攻守においてアグレッシブであること。球際に強く、人が多く動く、ボールだけではなくて、ボールも人も動く。何となくのジェフらしさではなく、ジェフイコールなサッカーを目指したいですね。私が監督になる前から、ずっとやってきたことですから。
ジェフ愛を繋いでいくために。
――残念ながら、多くの女子サッカークラブが観客動員に苦戦しています。たくさんのサポーターに愛されるために、三上監督が伝えたい女子サッカーの面白さ、ジェフ千葉レディースのサッカーの魅力をお聞かせください。
(三上) 面白い試合内容であること。多くのゴールが生まれること。そしてやはり自分が応援しているチームが勝つこと。それが一番の面白さなのかなと思います。男子と比べると、女子はスケールダウンしているとか、迫力に欠けるなどと言われがちですが、
女子サッカーには、人の心を惹きつける“ひたむきさ”があります。実際に選手を見たら小さいし、うちの選手なんて本当に華奢ですけど、それでも本当によく走っている。謙虚にプレーしている。女子はその点はわかり易いと思います。他のチームに比べるとうちはそういう所がジェフユナイテッド市原・千葉レディースの特長で、たとえ負けても、頑張り切った所が見えるサッカーをしてくれる。勝敗を超えた感動を与えることができるのではないかと思います。
――その価値は、スタジアムでなければ味わえませんね。6月10日のダブル開催はそういった意味でもチャンスですね。歴史あるクラブの目の肥えた多くのサポーターの心を掴むきっかけになるのではないでしょうか。
(三上) はい。今度6月10日にダブル開催をクラブ史上初めて行いますが、この試合をきっかけに、男子チームを応援している人が、少しでも女子チームに興味を持ってもらえたら嬉しいですね。男女含めて、ジェフ愛を持ってくれるお客さんが増えるかもしれない。そういった意味でも今回、開催できることがとても楽しみです。
<6月10日(土)2017 J・なでしこWヘッダー>
□ 2017明治安田生命J2リーグ第18節 ジェフユナイテッド市原・千葉vsアビスパ福岡(13:00キックオフ)
□ 2017プレナスなでしこリーグカップ1部Aグループ第3節 ジェフユナイテッド市原・千葉レディースvsAC長野パルセイロレディース(17:30キックオフ)
※J2アビスパ福岡戦のチケットをお持ちの方は、なでしこリーグカップAC長野パルセイロレディースを無料で観戦できます。
詳細はコチラからご確認ください。
→<6月10日(土)2017 J・なでしこWヘッダー>
2017 J・なでしこWヘッダー関連のイベントも面白い。
□ ジェフレディース推しメン総選挙
□ ジェフレディース選手出身地ご招待〜生み育ててくれた土に感謝〜
――最後に、三上監督の指導者としての今後の目標をお聞かせください。
(三上) まだまだ足りないことだらけですので、レベルアップしなくてはいけない。なでしこリーグで監督をやるレベルに、まだ自分は達してないと思っていますので、日々しっかりトレーニングに励み、早くそのレベルに追いつけるようなりたい。そして、女性指導者がもっと増えて欲しいですね。日本だけではなく、アジアでそうなっていけたら面白いなと思っています。
――そういった意味でも、やはり1部リーグ最年少監督であるという立場、責任を大きく感じているのですね。
(三上) あなたにはそういう役割を担っている。という具合に、周囲の関係者に刷り込まれていますね。(笑)まずは目の前のことに必死に取り組むこと。それによって、このチームで頑張りたいって思ってくれる人が増えるような魅力ある指導者にならなきゃダメですね。
――本日はお忙しい中、ありがとうございました。
三上尚子(みかみ しょうこ) |
1981年1月8日生まれ
出身地:千葉県市原市 ジェフユナイテッド市原・千葉レディース監督 経歴:日興証券女子サッカー部ドリームレディース(1996~1998年)→田崎ペルーレ(1999~2001年)→ジェフユナイテッド市原・千葉レディース(2002~2003年)Christian Brothers University(アメリカ)(2003年)→University of Memphis(アメリカ)(2004~2006年)→ジェフユナイテッド市原・千葉(2007~2009年) 指導歴:ファンルーツ(2007~2008年)ジェフユナイテッド市原・千葉レディースU-18コーチ(2010~2013年)→ジェフユナイテッド市原・千葉レディース監督(2014〜) |
【取材後記】
一過性のムーブメントに頼らず、絶え間ない観客動員を導くために。クラブ愛という1つのキーワードがある。
強さに熱狂するのではない、勝利至上主義にあらず。ただ愛すべきクラブがあることに、ひたすら喜びを分かち合う。もしこれをクラブ愛と仮定した場合、三上監督がいう「勝敗を超えた感動」はかけがえのないものとなる。
そのためにはまずは、自らのチームがクラブ愛に満ちてなければならない。クラブ愛を育むこと。そして継承していくこと。三上監督の言動は実にひたむきであった。
そのひたむきさに加え、忘れてはならないのが、観客にとって、サッカー観戦はエンターテイメントであるということ。スタジアムに訪れる全ての者には楽しむ権利があるということだ。その点において、本拠地であるフクダ電子アリーナがサッカー専用スタジアムであるというロケーションは大きなアドバンテージになる。そういった意味においても6/10の男女W開催は意義深いものとなるだろう。
サッカーは慈善事業でなければ、スポーツ推進事業でもない。興行たる所以があることを見落としてはならない。スタンドに熱狂を作り出すために。ジェフユナイテッド市原・千葉レディースの挑戦はつづく。
〈了〉
Categories & Tags