J1 2nd 最終節 浦和レッズvs横浜Fマリノス
TV観戦とスタジアム観戦ではまるで違う。「そんなの当たり前だろ!」と思わずツッコミを入れそうになるが、初めてスタジアムを訪れた観戦者は口々に「やっぱり生は違うね~」って、その言い分も分からなくはない。だって訪れなければ決して味わうことができない”価値”がスタジアム観戦にはあるのだから。
J1 2ndステージ 最終節 浦和レッズvs横浜Fマリノス この日の埼玉スタジアムの観衆は56841人、超満員だ。
既に2ndステージ優勝を果たしてる浦和だが、この試合に勝てば年間勝ち点トップに立ち、この後に続くチャンピオンシップを俄然優位に戦うことができる。2016年以来の日本一へ向けて是が非でも勝ちたい!
埼スタの最寄り駅、浦和美園駅に到着したのは10時半ころ。キックオフまで3時間あれば十分だろうと高を括っていたけど、その見込みの甘さに気づくのに差ほどの時間は掛からなかった。電車から降りるのにも、階段を下りるのも、コンビニに行くのもままならない、ともかく人が多い。徒歩にして15分程度のスタジアムまでの道のりを慌ててタクシーに乗り込みショートカットを試みる。
ホーム自由席のチケットを握りしめて向かった先は北ゴール裏、熱狂的サポーターで埋め尽くされる白熱地帯だ。赤のユニフォームに着替えて意気揚々と辿り着いたはいいものの、どこを探しても空席は見当たらない。仕方なく反対側、南ゴール裏まで移動するも、そこでも空席は見当たらず。結局、状況を見かねた関係者の判断でビジターシートとの間隔を詰めることで、ようやく座席を確保することが出来た。
1割のファンに9割のサポーターといったとこだろうか。スタンドを見渡すと、純粋にサッカーを楽しもうという観戦者は殆ど見かけることはない。共に闘おうという気概を持ったレッズサポーターがスタンド全体を真っ赤に染め上げる。端に追いやられる格好になったマリサポもまた少数精鋭ながらビジターシートをトリコロールカラーで埋め尽くし”赤”と真っ向対峙する。応援者が醸し出す戦闘モードがスタジアムの熱狂を創り出すのだ。
スタジアムのボルテージが最高潮を迎える瞬間がある。このピークは多ければ何度も味わうことは出来るけど、少なければたった一回で終わってしまうこともある。だから1回目のこの瞬間に立ち会わなければスタジアム観戦の意味がない。そう言い切ってもいい。
最初に訪れるその瞬間は、キックオフ前、選手入場のシーンから始まる。ゴール裏に集結したサポーターたちが一斉に拳を突き上げ応援歌を大合唱する。それを合図にするかのように浦和レッズの入場曲「first impression」が流れる。ゴール裏の大合唱は瞬く間にすべてのスタンドへと伝播してスタジアム全体を轟かせる。そして選手がピッチに登場するのを待ち構えるように、ゴール裏に巨大な横断幕が出現する。この日の横断幕は、ハートに12が描かれた赤白黒のレッズカラーの三段だった。
試合前のセレモニーを終えた選手が散り散りにピッチに向かって走り出す。そのタイミングを見計らうように横断幕は降り、最前列のビックフラッグが一斉に上下に揺れ始める。「Pride Of Urawa」の大合唱が始まる。ゴール裏の大合唱を背に、選手が中央に集まり円陣を組む。
この瞬間に立ち会うことこそがサポーターの意義であり、スタジアム観戦の醍醐味なのだ。
この試合に賭ける想いは選手も同じだ。前線から激しいプレスでボールを奪い果敢に攻め上がる浦和。序盤から優位に試合を進めるもフィニッシュの精度が良くない。敢え無く前半を0ー0で折り返すことになった。
1ポイント差で首位浦和を追走する川崎がリードしているという情報も入り、この試合を勝たなければ後がない。この情報を選手が知ってるのかどうかは分からないが、後半戦の巻き返しが必須であることをサポーターを知っていたはずだ。
後半戦を戦う選手がピッチに入るその瞬間から、2度目のピークが訪れる。ゴール裏のサポーターが中央に固まり肩を組む。「歌え浦和を愛すなら~We are Reds」の大合唱が始まる。ゴール裏の赤の大軍がビックフラッグと共に一斉に体を上下に揺らす。この光景はまさに圧巻の一言鳥肌もんだ。
後半に入ると更に試合は拮抗する。息を吹き返したマリノスは齋藤学を中心に果敢に攻め上がる。何度か訪れた危険なシーンも西川の好セーブでなんとか切り抜けると、次第に試合の流れは浦和に傾き始める。
66分、ついに歓喜の瞬間が訪れる。李忠成とのワンツーで抜け出した関根がシュート、こぼれ球に反応した柏木が素早く蹴り込み浦和待望の先制ゴーーール!!その瞬間、ゴール裏のボルテージは一気に高まる。一斉に立ち上がりガッツポーズとハイタッチが終わる頃、「アイーダ」の大合唱が始まる。選手と共に喜びを爆発させる。スタンドの仲間たちと喜びを分かち合う。これも当然スタジアム観戦の醍醐味でもある。
試合はその後も浦和ペースのまま進む。しかし、85分、一瞬の隙を突かれマルティノスの同点ゴールを許してしまう。結局試合は同点のままタイムアップ。力なくピッチに倒れこむ選手の元に朗報が届いたのはその後のことだったようだ。2位川崎がG大阪に逆転を喫し、浦和の年間勝点首位が確定した。
そうだ。この瞬間に立ち会うためにここに居るのだ。ゴール裏に出現したチャンピオンと描かれた巨大なコレオグラフィーを目の当たりにして感動しない方がおかしい。共に戦い、共に喜び、そして一体になる。残念ながらTVではこの感覚を味わうことはできない。
浦和レッズのホームスタジム”埼玉スタジアム”でしか歌うことが出来ない。勝利を掴まない限り聴くことは出来ない。「We are Diamond」の大合唱が今でも耳から離れることはない。