Jリーグ チャンピオンシップ決勝 1st 鹿島アントラーズvs浦和レッズ
なぜあのPKを蹴らなかったのだろうか。
「欲を言えば自分で蹴りたかった。」試合後のコメントでこう話した興梠こそがキッカーであるべき。いや、そうでなければならないのだ。
その時は57分に訪れた。柏木が巧みなボールコントロールで小笠原をかわし、利き足の左足でペナルティーエリア中央に、丁寧にクロスを放り込む。ニアに走りこむ武藤と入れ替わるように、敢えて背後に回り込みテンポを遅らせる動きをとる興梠に対して、武藤の動きに引っ張られた格好になった西が興梠を倒してしまい、浦和がPKを獲得する。
レギュラーシーズンなら、ほぼ間違いなくそのPKを獲得した興梠自身が蹴るはずであろうそのPKをキャプテン阿部に譲ってしまったのだ。「前回の天皇杯で外しているので。」興梠の脳裏には、先に行われた天皇杯4回戦、川崎とのPK合戦で敗れた時の失敗がよぎったのであろう。
ゴールど真ん中へ蹴り込み、曽ヶ端との駆け引きを制した阿部のPKは確かに素晴らしかった。キャプテンの此処一番での気迫あふれるプレーか決勝点となり、浦和は、敵地カシマで貴重な勝利を収めた。
アウェイゴールを挙げての勝利。この上ないアドバンテージを手にした浦和だが、このキックだけは興梠に蹴らせるべきだったのではないだろうか。なぜなら彼こそがこの二連戦のキーマンだからだ。
この日、最も大きなブーイングを浴びてたのは、紛れもなく興梠だった。前所属のアントラーズサポーターは彼を歓迎してはいなかった。スタンド中を敵に回した興梠自身がゴールを挙げること。彼の活躍こそが、更にチームを勢いづかせ、相手を沈黙へと落とし込む。その機会を逸してしまったからだ。
さすがはチャンピオンシップ決勝戦、攻守が拮抗した好試合だった。小笠原と永木のダブルボランチが果敢にボール奪取に奔走し、土井、金崎が鮮やかなカウンターを仕掛ける。負傷明けの柴崎が途中出場ながら試合の流れを変えるほどの活躍を見せた。鹿島が浦和を覆す可能性はまだ十分にある。
どちらが勝ってもおかしくない好ゲームの勝敗を分けるのは、ほんの些細なキッカケ、ほんの僅かなほころびを自らの流れに引き込む勢いではないだろうか。それはキーマンの活躍に掛かっている。次戦の興梠の奮起に期待したい。