サッカー馬鹿

2017.3.6

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傑出したチームワークで上位進出を狙う。【ノジマステラ田中陽子の現在地・インタビュー&取材後記】

傑出したチームワークで上位進出を狙う。【ノジマステラ田中陽子の現在地・インタビュー&取材後記】

「強さを身につけたかった。成長した自分にしっかりなって代表に選ばれたい。」2年前、スター選手が多く所属する強豪INAC神戸を退団。当時2部リーグに所属していたノジマステラ神奈川相模原を新天地に選んだ理由を田中陽子選手はこう語っている。

田中陽子の国際デビューは華々しかった。15歳でU17女子日本代表に選出、2008年におこなわれたFIFA U17女子ワールドカップでは、全試合にフル出場、4ゴールを挙げ、日本の準優勝に貢献。つづく2012年、日本開催となったFIFA U20女子ワールドカップでは全6試合中6ゴール2アシストの大活躍で、日本を銅メダル獲得へ導くと同時に、シルバーシューズ賞を獲得。順調なステップアップを踏む。

瞬く間にアンダー世代で輝き、なでしこジャパンの将来を担う逸材として君臨する姿に、誰もが疑うことのなかった田中陽子でだが、翌年2013年、なでしこジャパンに初選出。同年9月におこなわれた国際親善マッチ、ナイジェリア戦での途中出場、途中交代という屈辱を最後に、なでしこジャパンに招集されることがなくなってしまった。「相手選手の厳しいマークに思うようなプレーをさせてもらえなかった。」田中陽子は、この試合をこう振り返っている。世界と渡り合うために足りなかったもの、そして、自らの成長の必要なもの、それは”強さ”に他ならない。

【再起への挑戦】

――「もっと強くなりたい。」という決意を持ってノジマステラへの移籍を決断したわけですが、今、実感している成長とは?

(田中)普段からトレーニングをみっちりやる監督で、その中に、必ずフィジカルトレーニングが組み込まれます。その後にボールを使う練習があり、その後にまた走りみたいな感じで、ホントにメンタルも鍛えられます。ボールを使ったトレーニングも、狭い範囲でやるものもあれば、広いものもあって、動き回らなければボールが回らないような、そういうメニューを結構長い時間やるので、日々のトレーニングで鍛えられてるなという実感があります。

――日々の厳しいトレーニングの効果は?

(田中)試合中にキツイ時にでも走れるようになったり、そういう時でも、しっかりと考えながらプレーできるようになりました。そして、試合に出続けることによって、思うようなプレーができる、そんな感覚が身についてきました。

――ノジマステラに入団してからの田中陽子選手は、楽しそうだ、活き活きとプレーしているという声を耳にしますが、そんな実感はありますか?

(田中)はい。それはありますね。求められていることと、自分がやりたいことが一致しているという実感はあります。そしてその背景にあるのが、監督との信頼関係だと思います。そこが一番大きい。

 

入団初年度から、田中陽子は、チームの中心選手として大車輪の活躍を見せる。リーグ戦27試合出場、26得点。157cm47kgという小柄で華奢な印象がある彼女だが、フィジカルの強さと、無尽蔵のスタミナを手に入れたことで、持ち前の得点力に磨きがかかった。そんな実感があるようだ。

しかし、チームはシーズンを2位で終え昇格プレーオフ進出を果たすものの、大阪高槻との決戦は、ホーム&アウェー共に引き分けに終わり、アウェーゴールという僅かな差に泣かされてしまう。新天地で飛躍を遂げるプレーを見せていた田中陽子だが、チームを昇格に導くことはできなかった。

【チーム一丸】

華麗なパスワークで翻弄し、ボールポゼッションで相手を圧倒する。ノジマステラ本来の特徴を発揮するためには、一個人の能力に頼るのではなく、チーム一丸となって戦うこと。ノジマステラには伝統的なチームワークが存在する。

後一歩のところで苦汁を味わうことになった田中陽子は、移籍後2年目のシーズンを、自らの飛躍と引き換えに、チーム一丸での悲願達成へと挑む。

 

――チームメイトとの関係性は?

(田中)入団当時は、即戦力の選手が7人同時に入ったので、既存メンバーとの関係性が難しかった。けど、それは時間とともに受け入れてもらえるようになった。個の強い選手が、チームを第一に考えるノジマステラのチーム方針への理解を深めることで、2年目に入って一つにまとまれてたのではないかと感じてます。

――入団1年目と2年目とでは、チーム状況はまるで違った。

(田中)はい。そうだと思います。ノジマステラは各選手との連携が大切な部分なのですが、そこがうまく行った時が嬉しい。連携が強まった要因は、やはりチームワークが高まったことではないかと思います。自分自身もチームのことが好きになっていった。それにはやはり監督が先頭に立って、チームを導いてくれている。そんな実感があります。

――例えばどんな風に?

(田中)試合に出ているメンバー、出ていないメンバーに関係なく、チーム全員での行動を促してくれるし、それがチームワークの向上に繋がっていると思う。それに、寮の草むしりや、用具の準備とかも全てコーチが先頭に立ってやってくれたりしている姿を見て、選手は本当に感謝しています。寮生活をはじめ、チームメイトと苦楽を共にすること。それをバッアップしてくれる監督やコーチ陣のサポートがあってチームの絆が深まっていった実感があります。

――個人的な飛躍を誓った2年前と、現在とでは、目標は変わらずともチームに対する想い入れが強くなった。

(田中)それはものすごくあると思います。

 

田中陽子2年目の挑戦、2016シーズンを迎えたノジマステラは、開幕7連勝と怒涛の快進撃をみせる。14節を終えた時点で13勝1分の独走態勢に、誰もがノジマステラの1部昇格を疑うことはなかった。

ところが、リーグ終盤に突入すると、ノジマステラは、2位ちふれASエルフェン埼玉を中心に、上位チームの追い上げに苦しむことになる。つづく15節愛媛FCレディース戦、16節ちふれASエルフェン埼玉戦、共に先制しながらも追い付かれドロー。足踏み状態にもがくノジマステラだが、リーグ優勝を決めた17節C大阪堺戦は、これまでとは逆に、先制を許す苦しい展開を土壇場でゴールを追い上げ、自らの力で優勝を手繰り寄せ悲願の昇格を決めた。

全18試合中5ゴールでシーズンを終えた田中陽子の成績を評価する者は少ないかもしれない。しかし、自らのゴールと引き換えにチーム一丸となり掴み取った悲願達成に、彼女は涙ながらにインタビューでこう語っている。「自分がこのチームにいられることが幸せだなって、この仲間がすごい好きです。」

【ノジマステラの現在地】

そしていよいよ、ノジマステラのなでしこ1部リーグ初挑戦が始まる。

リーグ3連覇に挑む日テレ・ベレーザを筆頭に、4年振りの王座奪回に向けてINAC神戸が追従する。お馴染みの顔ぶれが上位にひしめく近年のなでしこリーグだが、昨年、1部リーグに初参戦したAC長野パルセイロが、強豪INAC神戸と勝ち点で並ぶ3位につける健闘をみせるなど、昇格組の台頭に勢力図は大きく変わろうとしている。

1部2部それぞれのリーグを経験している田中陽子にとって、ノジマステラの現在地、ならびに展望を聞いてみた。

 

――今シーズンから始まる1部での戦いに自信は?

(田中)練習試合で実感しているのは、力の差はそれほど変わらないということ。ただ大きな違いがあるとすれば、それは最後の強さ。皇后杯でも1部と2部のチームが戦いは、僅差なんですけど、最後には1部が勝つみたいな。試合内容でしたら、2部でも引けを取らないんですけど、最後の強さ、そして巧さが違う。最後の最後で、どういう風に点を獲るか、逆にどういう風にして失点を防げるか。最後の強さが大事。

――田中選手が入団した当時はプレシーズンマッチで1部のチーム相手に1勝5敗だったような記憶がありますが、現在のチームは、当時のチームとは全く別のチームになった?

(田中)今年のプレシーズンマッチは、3勝3敗2引き分けだったので、チームレベルが上がってる実感はあります。まずは失点を防ぐこと。そうすれば上位を狙えると思う。得点力には自信があります。チームとしては5年以内に優勝する。これが監督の構想です。

 

1点の重みに泣き、1点の重みに歓喜したノジマステラ。伸び悩む自らを奮い立たせるように新天地での飛躍を誓った田中陽子。そして傑出したチームワークと共にトップリーグに舞い戻ってきた彼女の視線はしっかりと前を見据えていた。

〈了〉

《取材後記》女子サッカー発展のために

この先は、ノジマステラ神奈川相模原というあたたかいクラブに迎えられて、強く感じたことを綴ってみたい。

創設からわずか6年目にして、トップリーグへの挑戦権を得るまでに成長したノジマステラ。その背景には、様々な役割を担う、多くの方々の尽力があったのであろう。ほんの1時間程度の訪問ながらも、その姿を垣間見ることができた。

「社長が一番のサポーター」田中陽子選手がこう紹介してくれたノジマステラ山内社長、そして、「この職(広報)に就くのが夢だったんです。」こう言ってはにかむ広報の小室さん。彼女は以前、サッカー選手を目指していたそうだ。田中陽子選手を含むこのお三方がボクらを出迎えてくれた。

この日対面した田中陽子選手は、普段見慣れたユニフォーム姿ではなく、OLさながらの糊の利いたシャツを着用していた。週4日間、午前中に実務をこなし、15時よりトレーニングを開始する。これがノジマステラに所属する選手たちの実情である。

「人事部に配属していたんですが、チームのフロント部門に異動になったんですよ。」こう語る田中陽子選手の表情は非常に明るい。「社会人として働くようになって視野が広くなった。こういう環境にいなければ分からないことも沢山知れる。」前向きな姿勢というよりは、好奇心をくすぐられるという表現の方が相応しいかもしれない。

「環境的にはものすごい恵まれています。サッカー以外のところでも、会社が全面的にバックアップしてくれます。」

専用グラウンドの完備、そこに隣接する社員寮。ノジマステラに所属する選手は、一般の社員と同様に福利厚生も充てがわれている。現役選手にとっては野暮な話題だが、退団後の就職のサポートも充実しているなど、厳しい世界に立ち向かう娘を送り出す親の立場からすれば、これほどの安心感はない。

不況に煽られ、多くの会社のスポーツ部の廃部の報道を耳にしてきた我々にとって、実業団という立ち位置で力強く存続するノジマステラは、成功モデルと言い切っても良い。そして、このモデルケースこそが、女子サッカー発展の糸口になるはずだ。

会社と選手の信頼関係、そして、傑出したチームワークが創り出す一体感は、地域をも巻き込む。Jリーグのホームタウン活動に習い、ノジマステラの選手たちも、積極的に地域活動に参加している。「1人でも多く応援してもらえたら。」「女子サッカーのことを知って欲しい。」彼女たちの願いは、着実に身を結んでいる。その証拠が、サポーターの存在である。

「近所のおじいちゃん、おばあちゃんが散歩がてらに練習見学に来てくれます。(笑)地元の方々に愛されてるチームなんだなぁと実感してます。試合中の声援も優し過ぎるくらい優しくて、励みになってます。それに、遠征にもたくさんの方々が応援に駆けつけてくれるんです。広島や愛媛など、遠方にもかかわらず、相手チームのサポーターよりもたくさんのサポーターが来てくれて熱い応援をしてくれています。」田中陽子もサポーターへの声援への感謝を口にしている。

地域を巻き込み応援者を増やしていく。そのために必要なことは、サッカーの魅力を伝えていくことだけではない。会社の風土やチームの個性、そして選手個人の発信力を高める必要性を改めて感じた。いや、そうしなければ勿体無いからだ。女子サッカーならではの魅力を挙げるとするならば、それは発信に対するレスポンスの高さ。つまりSNSとの親和性が極めて高いということ。それは女性ならではの柔軟性がもたらす大きな効果といってもよい。発信力を高め、コミニュケーションを活性化させる。そして影響力を高めること。あたたかい会社に迎えられて感じたこと。それは女子サッカー発展への未来だった。

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