地に足をつけて。堅実なる歩みで世界に挑む《ノジマステラ神奈川相模原/なでしこジャパン 高木ひかり選手インタビュー》
闘いのステージが上がると、そこには必ず強敵が待ち構えている。
一昨年、早稲田大学を卒業後、なでしこリーグ2部所属のノジマステラ神奈川相模原に入団。快進撃を続けるチームは2部リーグを制覇。高木ひかり選手の日本女子サッカー界最高峰、なでしこリーグ1部の挑戦が始まった。
一方ではU-17、U-20女子日本代表と、各年代の代表に選出され続け、エリート街道をひた走る高木選手は昨年ついに、なでしこジャパンに選出。女子サッカー選手として着実なキャリアアップを成し遂げる。
しかし、ステージが上がるごとに「力の差は歴然としている」と高木選手は語る。1部リーグ初参戦のノジマステラはリーグ前半戦を終え7位と苦戦を強いられている。アルガルベ杯に臨んだ新生なでしこジャパンは、世界の強豪の前に敢え無く膝をついてしまうことになる。
だからこそ地に足をつけることが大切。強敵と対峙することを自らの成長の糧にしている若き選手たちが日本には数多くいる。高木ひかり選手もまたその一人である。薄れゆく世界一の歓喜に一筋の希望のひかりを見る。当インタビューで一人の女子サッカー選手の堅実な歩みを追いかけてみたい。
ひたむきな姿勢で旋風を巻き起こす
――各世代の日本代表に選出され、強豪チームからもオファーが届いていたと聞いています。なぜ当時2部リーグに所属していたノジマステラの入団を選択したのでしょうか。
(高木) ノジマステラと私が在学していた早稲田大学は、よく練習試合をします。対戦していて感じたことは、ノジマステラのサッカーが面白かったことでした。しっかりパスを繋いでゴールまで向かう姿勢や、相手に負けないで走り続けるところ。そういったひたむきさに惹かれました。
――ノジマステラではどのようなトレーニングを行なっているのでしょうか。
(高木) とにかく走りのトレーニングが多いですね。シーズン中は、週に一度試合があるサイクルですので、月曜日はオフで、火曜日はリカバリー、水曜日軽く調整して、木曜日に戦術トレーンングをやって、金曜日は試合に備えるみたいな感じになるのが一般的ですが、ノジマステラでは火水木でも走りのメニューがあります。
――チームは1部リーグ初参戦、高木選手は入団から2年目を迎えましたが、走り込みの成果を実感できますか。
(高木) 試合終盤でも体力が落ちずに走り続けられます。1部リーグでは、相手は強いチームですし、高いスキルを持つ選手も多い。戦績では五分五分に感じられる人も多いと思いますが、支配率的では40%、シュート数を見ても15対5といった具合に、内容的にはかなり相手に上回られています。
それと比べると自分たちはまだまだ劣る部分があるので、後半でも果敢プレスに行くとか、ボールを追い続けるとか、そういった姿勢は継続できているのかなと思います。どんな状況でも食らいつく。サポーターに最後まで期待してもらう様なサッカーをすることが大切だと考えています。
――高木選手の自分の持ち味を教えてください。
(高木) 1対1の局面で負けないところ。あとはフィードですね。ロングキック一本で攻撃に繋がるようなパスを出していくところが持ち味だと思っています。代表のDFコーチに「2部で通用していた事が1部じゃ通用しなくなる。どれだけできるか、それが成長に繋がる。」と言われていて、今まさにそれを実感しているところです。
――実際に対峙してみて印象に残った選手はいますか。
(高木) 杉田亜未選手ですね。上手い!の一言に尽きますね。小さいのに上手く体を入れてきて、ドリブルもなかなかボールが奪えない。やはり代表に選ばれている選手は対人に強いなという実感はあります。横山久美選手(AC長野パルセイロレディース)とか、田中美南選手(日テレベレーザ)もやはり強くて上手いですね。
――リーグ戦、前半戦を終えたところですが、新たな決意をお聞かせください。
(高木) 現在は7位ですが、力関係では、やはり上位のチームには敵わないという実感はあります。ただそういう状況だからこそ食らいついていきたい。ノジマステラが今シーズンの台風の目になりたいと思っています。
世界と渡り合うために
――高倉新監督が就任してから代表選出が続いていますが、ノジマステラでのポジションと代表でのポジションは違いますよね。それぞれのチームでどういった役割を任されているのでしょうか。
(高木) ノジマステラではスリーバックの真ん中をやっています。1人が行って、1人がカバー、1人はボールをカットするみたいな感じで、それぞれが役割をこなし、補い合いながら守備をしています。
――直近の代表戦では4バックの右サイドで出場していましたが。
(高木) そうですね。あんまりサイドの経験がないので、監督からチャンスがあったら行けと言われていたのと、最近の試合では左サイドからの攻撃が多かったので、右にも起点を作らなきゃいけないと思っていて。中島依美選手(INAC神戸レオネッサ)と組ませてもらいましたが、やっぱり自分が上がった方が依美さんも行きやすいなと感じました。
――攻撃は得意ですか。
(高木) もとはDFの選手ではなかったので。でも今は、ほぼセンターバックですね。
――代表へのこだわりは強いですか。
(高木) 選ばれることはすごく嬉しいです。それにトップレベルでプレーすることで、自分の足りない部分が見えてきますし、まだまだ伸び代があるのかなと気づける。でもまだ練習中も、ほぼ指示を受けているだけなので、もうちょっとワンランク上に上がって、味方に指示を伝えられるような選手になりたいなと思いますね。
――目指している選手はいますか。
(高木) 有吉選手(日テレベレーザ)です。アメリカ遠征の時に同じ部屋になって、プレーだけではなく、人間性にも惹かれました。気さくで何でも相談にのってくれる。私と同じ、大卒の選手なので、これまでどういう気持ちでサッカーと向き合ってきたという話を聞いてすごい人だなと思いました。有吉選手は、サイドでもずば抜けて上手いと感じる選手で、ボールの持ち方だったり、周りの指示の出し方だったり、見習うところがたくさんあります。
――ディフェンスリーダーを目指しているのですね。
(高木) ディフェンスリーダーとなると、紗季さん(熊谷選手/オリンピック・リヨン)はとにかくすごいですね。ずっと声出し続けて、常に周りを見て指示を出している。そこにはまだまだ及ばないなと感じているので。今後の代表のためにも、もっともっと下の世代が伸びていかないといけないと思っています。
――アルガルベ杯とコスタリカ戦を終えて、世界での手応えを感じていますか。
(高木) アルガルベではなかなか勝てなかった。優勝したスペインが強過ぎました。その試合でセンターバックをやらせてもらったのですが、全然できなかった。ポゼッションも上手いし、フリーの選手をうまく使われてしまって。
失点は自分たちのミス絡みでしたが、それでも日本が何かできたかというと、あまりできてはいない。監督は、まだまだ技術を上げていかないといけないと言っていましたし、コスタリカ戦も格下だからこそ、もっとやれることがあるはず。このまま終わるわけにはいかないとハーフタイムで指示を受けました。世界相手だからこそ、体を張るところは全力で張りたいし、やはりディフェンダーですから、ゴールを必死で守ることが一番自分に求められていることかなと思っています。
――さらなる成長のための選択肢として、海外挑戦は考えていますか。
(高木) 少しあります。大学の同期だった山本摩也選手が今、スペイン1部リーグのバレンシアCFでやっていて。そういう選手たちを見ていると、みんなが平等にチャレンジできる環境があるのかなと思っていて、それに横山久美選手(フランクフルトに期限付き移籍が決定)とは仲が良いのですが、仲の良い選手が海外挑戦する姿を見ていると、すごいなと思う反面、羨ましいなと思います。代表でも海外組の選手たちから話を聞くと、やっぱり若いうちに行っておいた方がいいよと言っていたので、そんな自信とか度胸もないですけど、行ってみたいなと思うことはあります。
――本日はお忙しい中ありがとうございました。
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2011年、なでしこジャパンがドイツW杯で世界制覇を成し遂げた頃、私はU-20代表であり大学生でした。そしてなでしこジャパンがリオ五輪出場を逃した時、私はU-23代表としてラ・マンガ国際大会を戦っていました。高木選手は当時の様子を語ってくれた。
強いはずの日本が負けた。これは大変なことだと思った。高木選手はこう続ける。厳しいプレー環境の中で勝ち取った世界一の勲章、これを契機に多くの日本人選手は海外移籍を果たし、国内のプレー環境は格段に整備された。
今、私は恵まれた環境の中でサッカーができている。これほどまでにサッカーと向き合える時間を確保してくれているノジマステラにも本当に感謝しています。そして私たちは、先輩たちが築き上げた歴史を目の当たりにすることができた恵まれた世代でもあります。だからこそ引き継いでいきたい。
高木ひかり(高木 ひかり) |
ニックネーム:ぶー
1993年5月21日生まれ 出身地:静岡県三島市 ノジマステラ神奈川相模原所属 ポジション:DF・MF/背番号19 利き足:右 経歴:三島山田サッカースポーツ少年団→常葉学園橘中学校→常葉学園橘高校→早稲田大学→ノジマステラ神奈川相模原 日本代表6試合出場 |
【取材後記】
2回目となったノジマステラのインタビューでしたが、今回は横浜みなとみらいにある本社ビルではなくノジマフットボールパーク内のクラブハウスで執り行うことになった。
インタビュー内で高木選手はノジマステラのハードトレーニングについて触れていました。その中で印象的だったのは、菅野監督の厳しさ、言わずもがな、彼女への期待の表れでした。
ひと通りのインタビューを終え、グラウンドに目を移すと、連絡前のウォーミングアップをしていた菅野監督と田中陽子選手の姿が見えるではないか。折角のタイミングなので、高木選手の案内でウォーミングアップにお邪魔させてもらいました。
その狙いはもちろん菅野監督と高木選手の会話を盗み聞きするためである。(笑)案の定、その会話から感じたことは愛情の裏返しであったことは言うまでもない。
それよりも気になるモノが目の前にあった。端と端をテープでつなぎ、綱渡りのようにそのテープの上を歩く。スラックラインというトレーニングの装置。スキージャンプの葛西選手が体幹を鍛えるために取り入れたトレーニングとして知られているらしい。
取材後記のハイライトとして、今回は高木選手と田中陽子選手のスラックライントレーニングの様子を動画でお届けします。
ノジマフットボールパークへは、相模線相武台下駅から徒歩10分ほど。練習スケジュールはホームページより掲載があります。ファンサービスも執り行われているので、是非訪れてみてはいかがだろうか。
<了>
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