たった四年間で観客動員数を十倍にしたJリーグ所属のサッカーチームがあります。新潟県をホームタウンに置くアルビレックス新潟です。
アルビレックス新潟は、浦和レッズに次いで2番目にサポーターの数が多く、最多年間観客動員数を記録するなど、Jリーグ屈指の人気サッカーチームです。
その功績のきっかけになったのが、2002年に開催した日韓W杯で使用された、4万人収容の巨大スタジアム「ビッグスワン」の建設でした。
サッカー不毛の地、新潟に、突如やってきたW杯ムーブメント、そして翌年2003年に、アルビレックス新潟はJ2優勝を達成
1試合平均4千人程度だった観客動員数は、加熱するサッカー人気と共に瞬く間に膨れ上がり、超満員の「ビッグスワン」は、アルビレックスのチームカラー、オレンジ一色に染まり続けました。
「満員のスタジアムこそがサッカー観戦の醍醐味」
当時のアルビレックス新潟社長中野氏はこう語ります。
一過性のブームで終わらせることなく、常に満員のスタジアムを実現させるために、アルビレックス新潟はサッカーブームに頼ることなく、ある大胆な集客方法で満員のスタジアムを後押ししていたのです。
その方法とは、無料招待券の大量発行でした。
「まずは一度、スタジアムに足を運んでほしい」
新規開業のお店などが行う「初回限定サービス」という販促方法があります。
「お試し」という価値観はとてもわかりやすく、爆発的に集客する手法としては最も効果的なのかもしれません。しかし、初回限定サービスには、商品価値を著しく下げてしまうという危険性があります。
例えば、初回のお客さん限定で、50%の値引きを実施したとします。
定価での購入を続けてくれるリピーターや得意客は、このサービスを快く思うでしょうか?
一度でも、50%オフの優待を受けたお客さんは、果たして次回、正規料金を支払ってくれるでしょうか?
初回限定サービスは再来店に繋がりにくいというリスクを伴います。
一時は、爆発的な集客に成功したアルビレックス新潟でしたが、2005年をピークに観客動員数は減少し、1試合平均4万人を集めたスタジアムは、次第に空席が目立ち始め、2013年には、1試合平均2万5千人を切る結果となってしまったのです。
安売りを手段に集客には成功したものの、再来客が一向に増えず、さらに安売りを繰り返してしまう・・・
ところが、アルビレックス新潟は、このような新規客頼みの負のスパイラルに陥るどころか、新規客はリピート客に、リピート客はサポーターへと・・・着実に変貌を遂げていたのです。
シーズンチケットの販売実績にその証拠があります。
サッカー観戦のチケットには大きく分けて2種類のチケットがあります。
サポーターが購入する年間チケットと、地元企業や後援会に割り当てられるスポンサーチケット、これらはシーズン前に座席が確定するチケット、いわゆる固定売上です。
もうひとつは、前売り券や当日券など、シーズンが始まってから販売するチケット、いわゆる変動売上です。
サポーターが増えていく過程は年間チケットの販売数を見れば一目瞭然でした。
その数は、ピーク時には、21700枚を記録、観客数の50%を占めることに成功、スポンサーチケットと合わせて70%を超える固定売上げを確保していたのです。現在でも販売数こそ減少したものの、高水準を維持し続けています。
一方、変動売上げを確保するために、前売り券の売れ残りを当日券として販売せずに、無料招待券として地域に配布して来場を促進させ、満員のスタジアムを実現させることで観戦価値を高めていたのです。
4年間で10倍の観客動員を達成した要因は、無料招待券による新規集客の促進だけではなかった!新規集客に頼らず、再来率を高めた結果、つまり、多くのサポーターを生み出すことで成し得ていたのです。
「アルビレックスを支えているのは信頼関係」
地元企業に何度も足を運んだり、来場者の不便を聞いて回ったり、サポーターとのコミュニケーションに力を入れたり・・・
「顧客との交流を続けることでチームとサポーターの信頼関係を築くことができた。」
中野氏はこう続けます。
試合に勝利すること、魅力的なチームを育てること、そして、満員のスタンドを作り出し観戦の醍醐味を提供すること。
顧客満足を高めることはプロとして当然の努力。しかし、顧客満足度を高めるだけでは、応援され続けることはあり得ないのです。
アルビレックス・サポーターは、他チームと比べて特徴的なサポーターだと言われています。
・ 50歳以上の観客 リーグ1位
・ 観客の平均年齢 リーグ1位
・ サッカー未経験者 リーグ1位
・ 県内(商圏内)からの観客、リーグ2位
・ 好きな選手を応援したい。リーグ最下位
(サポーターアンケートより)
このデータを紐解くと、スタンドを埋め尽くしたアルビレックス・サポーターは、元来のサッカー好きだけではない。サッカーそのものというよりは、地元チームを後押しすることに喜びを感じている人たちだということが窺い知れます。
アルビレックス新潟は、地域住民の心を掴み、お茶の間の話題の中心的存在になることに成功したのです。