来たる3月21日、なでしこリーグ1部2019シーズンが開幕する。優勝候補筆頭は間違いなくリーグ4連覇中のベレーザだろう。対抗馬にはこちらも4季連続で2位につけているINAC神戸レオネッサが挙げられる。
数多くの代表選手を輩出する名門クラブが牽引する2強時代は暫くつづきそうな様相だが、この2強に割って入るクラブがあるとすれば、その先駆けとなるのはやはりノジマステラ神奈川相模原だろう。
創部からわずか5年でなでしこリーグ1部昇格を果たしたノジマステラは、昇格初年度の2017シーズンこそ最終戦までもつれ込む熾烈な残留争いに苦しんだものの、同年の皇后杯では準優勝の快挙を果たした。その翌年、リーグ1部2年目のチャレンジとなった昨シーズンは昨季の順位を大きく上回る3位を記録。
前年の順位を一度も下回ることなく快進撃を繰り広げてきたノジマステラは、2018シーズン終了後、菅野 将晃監督の勇退を発表、後任に野田 朱美を指名した。
女子サッカー界において野田 朱美の名を知らぬ者はいない。ただし、その印象は彼女が歩んできた道程によって異なるはずだ。名門読売クラブ(現日テレベレーザ)出身の野田はその中心選手としてリーグ4連覇を果たし、日本女子代表に選出。女子サッカー界初の世界大会出場となったアトランタ・オリンピックでは主将としてチームを牽引。
その後、日テレ・ベレーザの監督経験を経て、日本サッカー協会の女子委員長に女性として初めて就任した。
当時を知るサッカーファンの多くは、エリート街道をまっしぐらに突き進む彼女をレジェンドと称えたに違いない。
ところが、その後のサッカー人生はこれまでとは別のいばらの道を辿ることになる。2014年、JFL公認S級コーチライセンスを取得した野田は本格的に指導者として歩みはじめた。
その第一歩となったのが2016年5月、伊賀フットボールクラブくノ一監督の就任だった。選手時代の華やかなキャリアがクローズアップされる中スタートしたなでしこリーグ1部の戦いだったが、クラブは2017シーズンを最下位で終え2部降格の屈辱を味わうことになる。
監督を退任した野田は翌年、新たな挑戦を決意する。それはプロリーグでもない、ましてやトップチームでもない、若年層の指導に携わるという決断だった。ノジマステラ神奈川相模原のアカデミー総監督兼ドゥーエ(U-18)監督に就任した野田は「私にとっての原点回帰」と語っていた。
そして今季、彼女は再びなでしこリーグ1部の舞台に舞い戻ってくる。以下は三度目となるインタビューとなる。
(野田) 1年前に話したとおり、いろいろなカテゴリーを経てと考えていましたが、菅野(将晃)監督の退任が決まった後でのタイミングでしたので、そこは迷いなく引き受けました。
――なるほど。そして野田さんの監督就任と同時に、先ほど、野田さんの後任には伊賀くノ一時代の同僚(当時は広報を担当)の原 歩さんにアカデミー総監督兼ドゥーエ監督を引き継ぐ形になったことを知って、再びこのコンビが実現したのですね。
(野田) 彼女には伊賀の時はフロントで入ってもらいましたが、彼女とはサッカーセンスや感覚はすでに共有できていますし、アカデミーからクラブ一貫を目指しているので、迷いなくお願いしました。それに彼女にはやはり現場復帰して欲しかったという想いもありました。それだけ彼女のサッカーセンスが素晴らしいということです。
――チームを引き継ぐにあたって、今シーズンに向けた野田さんがお考えの構想をお聞かせください。
(野田) 元々個の能力が高い選手が多いですし、プレーする選手も、観ている人たちも楽しんでもらえるサッカー。今年はそのベースを作りたいと考えています。もちろん優勝を目指しますが、優勝に値する確固たるスタイルがあるのかといえば、まだそこまでに至っていない部分があると感じています。前任の菅野さんが長年かけて築きあげた土台に、色を加えていきたい。今年は私の色というよりは選手たちと話し合いながら、どういう色を加えていけばいいのかを探っている感じです。
――前任の菅野監督のサッカーを野田監督はどうのように感じていますか。
(野田) 感覚を大事にされているなと。昨年から1年間、練習を見させていただきましたが、理論的というよりは感性や閃き、感覚的な部分を大事にされている、そういうところを随所に感じました。昨年からそこに魅力は感じていました。
――昨年は3位というクラブ史上最高の成績でシーズンを終えましたが、このタイミングでチームを引き継ぐことに、どのような感情を待たれているのでしょうか。
(野田) 創部6年目、なでしこリーグ1部2年目のチャレンジで3位という結果はクラブとして大きな功績だと思いますが、3位という立ち位置は、周りから見る風景と、中で見る風景とは大きく異なります。監督就任後、まず初めにしたことは選手との面談でしたが、私も選手たちも、3位といえども、1位、2位との間に大きな差があると感じています。優勝争いの末の3位ではなく、だんごの中の3位だということです。ここ数年、2強時代(日テレ・ベレーザ、INAC神戸レオネッサ)がつづいていますが、やはり、この2強に食い込む戦いができるかどうか、そこは選手たちと意思の疎通ができています。
――その2強と対峙するにあたって、どのような強化を考えていますか。
(野田) セットプレーと守備面の強化のために、経験豊富な櫻本 尚子(前ジェフ千葉レディース)と中野 真奈美(前長野パルセイロ・レディース)を獲得しました。今シーズンは新人も移籍組も多く、チーム内の活性化を期待しています。当然ながら一体感は欠かせませんが、その一方で熾烈なポジション争いがレベル向上に繋がるはずです。今年はワールドカップイヤーですし、来年は東京オリンピックが開幕します。このチームから一人でも多くの代表選手を輩出すること。これも一つの目標です。そこは昨年までとは少し違うかもしれません。目標をどこに置いているの?1部でプレーできればそれでいいの?私は目標が低いのがすごく嫌で、常に上を目指して欲しいですし、それは監督としてというより先輩として求めてしまうのだと思います。まだまだ物足りない、その志では今いる代表選手たちには敵わないよって私は教えてあげたい。
――野田さんには、伊賀くノ一監督時代から3年間にわたってインタビューさせていただいていますが、昨年のノジマステラ アカデミー総監督兼ドゥーエ監督の経験を経て、この3年の間でご自身はどのようなステップを、あるいは変化を感じていますか。
(野田) 自分のサッカー感だけを押し付けなくなりました。(笑)我慢強くなりました。何でできないの?から、どうやったらできるようになるのか。選手をしっかりと見てあげることを覚えました。特に昨年の伸びしろの大きいユース世代の指導にあたり、彼女たちの成長を目の当たりにして多くを学びました。それと同時にトップでの経験値というものが改めて財産であることも認識できました。今はすごく穏やかになりましたね。毎日がすごく楽しいです。
――昨年の経験がそれほどまでに大きかったのですね。
(野田) 昨年はユース年代でいったら無名のチームで選手たちも精神的に未熟でした。監督就任当時、この子たちの前でフェスティバルには出ません、本気の大会しか出ないし、本気で上を目指す子だけついてきて欲しいと宣言しました。おそらく相当スパルタだったと思います。でもそれが1つずつ1つずつ成長していって、最終的に全国大会までたどり着いた。この場に関われた経験は本当に大きかったですね。
――そして今年は同じクラブのトップチームの監督になった。とても意義深いですね。
(野田) すごく大きいですね、変わらない部分もあるし、一方で、大野や中野など高い経験値を持った選手がいます。大野がプレーで姿勢を示してくれたり、中野が精神的に引っ張ってくれたり、経験豊かな選手たちから多くを学べる、その強みを最大限生かしながら今年はやっていきたいと思っています。
――2年前、伊賀くノ一の監督時代に対戦したステラと現在ではどのような違いを感じていましたか。
(野田) あの頃はマンツーマンで必死に食らいついてくる“頑張るチーム“という印象が強かったです。2部から上がってきたばかりでしたし、とにかく団結力を感じました。その辺りは現在も変わってないですね。みんな頑張るし本当に真面目です。そこをベースに大野や久野(吹雪)が入ってきて、移籍組が増えてきたことで新しい風を吹かせている。今はがむしゃらにというよりは、みんなで考えながらやってくれています。
――昨年は育成について多くを語られていましたが、後任に原さんが決まり、ますます加速するという解釈でよろしいでしょうか。
(野田) そうですね。今年は既に何名かトップチームの練習に参加したり、や試合に入れたり、スタッフ同士でいろんな話をして共有してやっています。若い良い選手を育て引き上げていく。自前で育成できるということが今後大切な要素になるので、皆がそういう意識を持って取り組んでいます。トップチームだけが強ければいいというわけではなく、下部組織出身の選手を作りたいという想いが強いですね。
――それはやはりベレーザの育成を知っている方だからこそですね。では最後にノジマステラ神奈川相模原を応援するファン、サポーターの方々へメッセージをお願いします。
(野田) 今年はサッカーもそうですが、おそらく長期政権でやられてきた監督が変わったことで一番やらなければいけないことは、今まで以上に情熱を注ぐこと。これまでもいろんなチームで、どこにいっても注いできましたが、今まで以上に注がないといけない。当たり前のことですが、私自身も長期政権から変わる、長い時間をかけて作り上げてきたものを引き継ぐことに不安はありました。選手たちに動揺があるのもわかっていましたし、実際に話してそれは感じました。
結構な人数が辞めるかもしれないという覚悟もしていました。でも結構どころか、みんながそれでも残ってくれて一緒にやると言ってくれました。移籍組も各々が決意を持ってここでやりたいと言ってくれて。本当にいろんな思いを抱えながらでも決意をしてくれた選手たちにどう応えていくのかということがプレッシャーですし、今年一番取り組んでいかなければいけない。今はその思いでいっぱいです。
もちろん勝負にこだわっていきますが、ただ焦らずゆっくり時間をかけて選手との融合を目指します。昨年のスローガンは『変革』でした。その名のとおり、移籍組も多いし新卒もたくさんいます。スタッフも監督も変わった中で今年は一つの方向に向かいます。まさしく今年のスローガンである『ONE Stella』です。共有をテーマにやりたい。自分たちがどれだけ一つになれるかっていうのがキーになると思っています。応援よろしくお願いします。
――本日はお忙しい中ありがとうございました。
下記は2年前のインタビュー記事と昨年のインタビュー記事です。合わせてお読みいただくと、よりお楽しみいただけると思います。
逆境を楽しむ。不屈の精神で挑み続ける。だから私は今ここにいる。
なぜこのタイミングで“育成の道”を選んだのか。「女子サッカーの底力は東京オリンピック後に試される。」
野田朱美(のだ あけみ) |
1969年10月13日生まれ 出身地:東京都狛江市 現役時代のポジション:MF 利き足:右足 |
経歴:読売サッカークラブ女子・べレーザ(1989~1991)→読売日本サッカークラブ女子べレーザ(1992~1993)→読売西友べレーザ(1994)→宝塚バーニーズレディースサッカークラブ(1995~1996)通算:127試合75得点 監督歴:日テレべレーザ(2010.11~2012)→伊賀フットボールクラブくノ一(2016.5~2017)→ノジマステラ アカデミー総監督兼ドゥーエ(U-18)監督(2018)→ノジマステラ神奈川相模原監督(2019〜) 代表歴:76試合出場24得点(1984~1996) |
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